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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.6  概ねの方向を決める手がかり(5)正義の味方かダークサイドか

正義の味方派

 全ての組織に当てはまる最良のHRMがあるのか、そうでないのかという議論と良く似ているが少し違う論争も、HRMには存在する。正義の味方派とダークサイドの争いである。ダークサイドとは、大ヒットした映画スターウォーズのダークサイドからきた言葉だ。

 正義の味方派は、HRMを会社と個人の双方の利益に貢献する有用な手法と広くとらえる。会社のビジョンやミッションをハッキリと示し、コミュニケーションを改善したり処遇をよくしたりして、従業員のコミットメントを引き出し、より満足して働いてもらう。その方が会社の業績もよくなり、株主も喜ぶ。結果的に、社会も雇用の確保という恩恵を受けることができるという訳だ。正義の味方である。

 正義の味方派は、古くは家父長的温情主義にその源流があり、新しくはネオ人間関係論学派にもつながっている。
戦後日本のHRM像は、少し極端に言えば、「利益追求に走りがちな経営者と過大な要求をする労働組合の間に立ってそれぞれにむかって説得をおこなう人」であったり、あるいは「人の評価の公平性を確保するために努力する部署」あったりして、圧倒的に正義の味方派であった。
 

ダークサイド派

 これに対してダークサイド派は、コミットメントを引き出すというような発想は、人を操作していて、結果的に、個人が自分でものを考えたり選択したりすることを妨げていると強く異議をとなえる。「HRMの対象を広く取りすぎると、どこに努力すると効果がでるか分かりにくくなってしまうではないか。もっとはっきりと、企業の運営に貢献する手段というようにフォーカスを絞るべきだ。社会的貢献は、成長する企業、衰退する企業という形で市場が判断してくれる。」と考える。
 例えば、最近話題のキャリアカウンセリングについても、正義の味方派が、「自分のキャリアについて普段から考えておくことは、会社にとっても従業員にとっても大切なので大いにやるべし」と言うのに対し、ダークサイド派は、「変な手助けをするから、かえってキャリアについての考え方が頑になり、人生の目的も見つけられない。カウンセリングをすれば会社の業績が向上するという保証もない。悪しき温情主義だ」という。アンチ温情主義、アンチ人間関係論である。
 

価値観による区分

 正義の味方派は最良のHRM派に、どちらかといえば近い。正義は何種類もあるという考え方は、そもそも正義派には受け入れにくい考え方なのだ。しかし、正義の味方派とダークサイド派の区分は、何に対して貢献するべきなのか、あるいは、どのくらい欲望を正直に表明するのかという価値観に基づく区分なので、必ずしも最良のHRM派イコール正義の味方派というわけではない。

最善のHRM派にも正義の味方派は存在する。企業が選択した戦略別に正しいHRMが存在するとしても、HRMの目的は、個人と組織と社会全体に役立つこと、と考えることはできるからだ。

 

正義の味方派の問題点

 正義の味方派の問題点は、事業のあり方と関係なく正しいHRMが存在すると考えがちなところである。お客が欲しいものを比較的良く分かっていた時代は、企業の競争の仕方は製品の差別化が中心で、選択すべき戦略にあまり大きな違いは生まれなかったのでそれでよかった。
しかし、人々の豊かさの水準が上がって、欲しいものがはっきりしなくなったり、あるいは、欲しいものの分野が細分化されたりする時代になると、それぞれの企業が選択する戦略に大きな違いがうまれ、それではすまなくなる。戦略に適合するHRMが求められるようになるからだ。アメリカで、現代の組織が要求する付加価値のあるサービスを、HRは提供していないと批判されたの90年代半ばのことである。
日本の場合は、正義の味方派的考え方の影響はもっと大きい。80年代、日本企業の強い国際競争力のお陰で、日本的経営が注目を集め、長期的視点から雇用を重要視する日本型HRMがもてはやされた。そのため日本では、どういう企業であれ日本型HRMが正しいという姿勢が強くなり、結果的に、戦略論などに対するHRM関係者の関心は高まらなかった。
  その結果、経営と人事勤労部門の距離は遠くなり、HRMの考え方の変化も遅くなった。それだけでなく、遅れに気がついてあわてて消化不良のまま成果主義を取り入れるようなことが起こった。日本のHRMが世界から遅れ始めた原因の一つに、正義の味方派的考え方にたいする健全な懐疑が不足した点をあげることができる。

 

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