ホーム  
3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.7  HRMの創り方(1)ビジネス・モデルを支援するHRM

記録管理から労務管理、人事管理へ

 21世紀型人材マネジメントを考えるための手がかりがいくつか溜まったので、いよいよ人材マネジメントの仕掛けを、具体的に考えることに踏み出すことにしよう。そのためには、そもそも人材マネジメントは、何に貢献するものと考えられてきたのかをアメリカを中心に少し振り返る必要がある。人材マネジメントが貢献するものは、時代とともに大きく変化してきた。従って、今後も変化すると考えられるので、変化の方向をある程度予測しておかなければならない。
 人材マネジメントは、本人の履歴や賃金に関する「記録の保持」から始まった。やがて、労働運動が激しくなったことに対応し、労使関係の安定に貢献する集団的労務管理と個々の人を公平かつ有効に活用することに貢献する個別人事管理に職能が分離する。日本でも私が会社に入った1960年代の半ばころは、大抵の大きな会社には、勤労部や労働部とよばれる労使関係対応部署と、人事部とか人事教育部と呼ばれる個別人事管理を仕事の中心にする部署の二つが存在した。
 

戦略を支援するHRM

 その後、人事管理と労務管理を統合した人的資源管理HRMという考え方が登場する。企業間の競争が厳しくなるとともに、組織全体としての効率の向上に貢献することが求められたためだ。70年代に入ると雇用機会均等法対応などに代表される法的規制が強化され、HRMは社会的公正に貢献することが求められる時代となる。差別訴訟で企業が巨額なペナルティーを課せられるケースが頻発、対応を間違えると倒産にも繋がりかねない事態となった。そのため、賃金の支払い方や評価基準の明確化など処遇制度の透明性を高める工夫、例えばジョブ・グレード制の導入などが必要となった。

 それが一段落すると、次は戦略的パートナーの時代となる。事業戦略のあり方が企業の業績に関係するので、HRMを担当する人々は、経営者のパートナーとして、事業戦略を支援すべきであるとされた。
 HRMがビジネスとは独立的に存在するものではなく、ビジネスのあり方と密接に関係するものであるとの考え方が強くなったのである。ここまでが90年代前半までの動きだが、以降はさらにHRMにたいする要求が高くなり、「単に戦略を支援するに留まらず、より明確に会社のボトムライン(P/Lの一番下の欄が当期純利益なのでボトムラインと呼ばれる)に貢献せよ」に変化する。
戦略の実行に貢献しなければ役目を果たしたとはいえないというわけだ。理由は、企業の優劣は採用した戦略の優劣だけでなく、戦略を実行できるかどうかにより左右されると考えられたためである。

 日本でも、失われた10年と言われるような、世界との競争で日本企業が勝ちにくい状況が続いたのは、戦略的な思考の不足と実行力の不足が原因とされた。東大の藤本隆広教授は、日本のもの造り能力は依然として強いが戦略の巧拙のところで逆転されていると指摘、一橋大学の竹内弘高教授は、日本企業はどこもコストと品質といったオペレーショナルな効率で競争し、バリューチェーンのどこでがんばり、どこでがんばらないかといった戦略に基づく競争をしていないと指摘した。

 

戦略の支援からビジネス・モデルの支援へ

 しかし、ネットビジネスの登場とともに、企業の優劣は戦略の優劣で左右されるというよりは、ビジネス・モデルの優劣により決まるという考え方が強くなった。先にも述べたように、ビジネス・モデルとは、「お客さんは誰でどういう価値を提供し、どういう仕組みで利益を生み出すのか」という筋書きのことだが、事業の成功不成功は、戦略によって決まるというよりはもっと広く、事業全体のあり方、すなわちビジネス・モデルの造り方により左右されると考えられるようになったのである。

非常に多くのビジネスの仕組みが登場し、短い時間で勝ち負けが決まってしまうという現象のお陰で、中長期の課題に取り組む戦略の影が薄くなってしまったのだ。
 

企業の業績を左右するものに貢献

 これまで人材マネジメントの歴史を見てきたが、どうやら時代時代で企業の業績に大きく影響する事象に貢献が求められてきたと言うことが出来る。

 ここで最初の概ねの方向を決める手がかりを思い出してみよう。「ビジネス・モデルによる競争という状況はしばらく続く」というものであった。そうであれば、「HRMは、企業が選択したビジネス・モデルを成功に導くことに貢献するものでなければならない」という状況はしばらくは継続することになる。では、ビジネス・モデルによる競争が、HRMの創り方にどう影響するだろうか。次にこのことを考えてみよう。

 

前のコラムへ バックナンバー一覧 次のコラムへ

「21世紀型人材マネジメント―組織内一人親方に好ましい生態系の創り方―」をテーマに、これからも関島康雄のコラムを掲載していきますのでご期待ください。また、このコラムに関するご意見・ご感想もお待ちしております。
※ご意見・ご感想はメールにてお寄せください。メールアドレスは連絡先のページを参照願います。

Copyright since 2006  3DLearningAssociates All Rights Reserved.