市場が処遇の水準を決定するケースはいくつかある。典型的事例は、需給関係が逼迫している場合である。ある仕事に対する需要が多く供給が不足している場合、給与水準の市場価格は上昇し、それ以下の給与では採用が難しくなる。この場合でも当事者間で賃金の水準について交渉はおこなわれるから、市場の水準以上に交渉で決まるともいえるが、働く場所の選択権は求職側にあるので、決定は一方的であり交渉とは看做しがたい。
もう一つの事例は、学校を出たての新人を採用するケースである。日本の場合、大部分は職種別の採用ではないので、影響力を強く持つのは、産業別の学歴別給与水準という市場価格である。企業別の支払能力に差があるので、同じ金額にはならないが上下の差はそれほど大きくなく、この幅より高い給与で、あるいは低い水準で採用することはまれである。景気の動向により採用数は変動するので、当然のことながら、その変化は、その年の初任給水準に反映する。働く場の決定については、就職、採用ということで当事者双方に決定権があるが、給与の水準についての決定権は市場にあると言える。