ホーム  
3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.20  処遇(7)処遇のフレキシビリティを保つ工夫

ビジネス・モデルの変化は当然

 21C型人材マネジメントの基本は、ビジネス・モデル支援型である。ビジネス・モデルとは、お客さんは誰でお客さんに提供する価値はなにか、どうやって競争相手に勝つかという問いに答えるものだ。答えは、自分が所有する人材や技術、企業文化などの内部資源の特徴と外部環境を照らし合わせて決定されるが、簡単に人に真似をされないものでなければならない。
問題は、いったん作ったビジネス・モデルも、外部環境が変化すれば作り直しを迫られることだ。まったく別な分野から競争相手が現れたとか、お客にしていた若い女性の生活習慣がかわってきたなどの変化がおこれば、今までと同じ方法でビジネスを続けていては利益を上げることは出来ない。

ビジネス・モデルの変更がマイナーなものであればHRMの変更はそれほど必要でないかもしれない。しかし、大きく変得る場合は、HRMも変えなければいけない。HRMを変えるには、HRMを構成する部品を変更しなければならない。部品の山から選ぶものを変る必要に迫られるのだ。
 

HRMのフレキシビリティを保つ工夫

 そもそも、HRMを施策の束とみなす考え方、すなわち、人材の特定に関係する施策の山、処遇に関係する施策の山といった部品の山から、いくつかの施策を選び出して一つの束を作ると言う考え方(コラムvol.9vol.10参照)は、HRMのフレキシビリティを保つ工夫の一つである。しかし、部品の交換が簡単なものと、そうでないものがあるので、その区別を予めつけておくことは、大切である。

ビジネス・モデルの変更に伴って、採用する人や、社内教育の内容を変えることは、それほど難しくはない。しかし処遇の場合は、人が交渉で獲得したものであるので(コラムvol.14vol.15vol.16参照)、原則的にいって、変更するには再度交渉しなければならず、変更は簡単ではない。

交渉の対象とならない(なっても交渉が比較的に簡単にすむ)ものは、業績連動型の部分である。従って、処遇の制度設計にあたり最初に考えておかなければいけないことは、「処遇制度全体における業績連動部分の比率をどの程度にするか」である。これまでの検討を振り返り、業績連動部分がどれかを整理してみると、

年棒:
市場価格だが、そのうち20%〜30%は、賞与で業績リンク

インセンティブ:
ストックオプション、長期報償給は、どちらも業績リンク。(21C型では、退職一時金は年金とインセンティブに吸収されてなくなっている。)

フリンジベネフィット:
年金は給与にリンクするが、給与は市場価格なので業績リンクではない。健保は市場価格、休暇はポリシーだが市場価格は意識されるはず。自己啓発費用は年棒リンクなので市場価格。

よって、賞与とインセンティブの合計の比率をどのくらいにするかがテーマとなる。
 

処遇制度における業績リンクの比率

 当然、組織での責任や権限の大きい人ほど比率は大きくなる。最高経営責任者CEOを最大にして設計することになるが、日本の場合はこの比率が低い。9月18日の日経新聞に記事によると、「現状米国は87%、欧州は66%、日本は34%(タワーズペリン調査)」とあるが、これはまだ役員退職慰労金が制度として残っているからで、この部分が給与と賞与、インセンティブに分かれて吸収されていくので、日本の比率も徐々に高くなっていくとおもわれる。
反対にアメリカは、ストックオプションの弊害を防ぐ意味で長期報償給の方向に動くことにより比率は低下すると考えられる。Globalization の進展によって処遇も平準化の方向に進まざるをえないのだ。
 

処遇制度の買いとり制度

 交渉の対象となるのは、主としてフリンジベネフィットだが、この部分のフレキシビリティを保つ工夫が必要である。解決策の一つは、予め、買いとり制度を労働契約(交渉権を組合にゆだねた人は労働協約)にビルトインしておくことであろう。これは、使わなかった年次有給休暇の買いとり、といったような制度のことではなく、例えば、希望退職制度などのことである。
希望退職は外部環境の変化に対応するために、雇用機会を買い上げるもので、必ずしも不況対策を意味していない。M&Aや工場の移転によっても発生する。これと同様に、フリンジベネフィットの水準を一時金によって企業が買い取る制度である。一時金をもらってベネフィットの水準を下げるかどうかは、希望退職に応じるかどうかと同様、個人の選択にまかされる。既にアメリカの自動車産業では、組合との交渉でこの制度が認められはじめているが、21C型では、そういう提案がある可能性のあることを契約上明確にしておくことになる。
 
前のコラムへ バックナンバー一覧 次のコラムへ

「21世紀型人材マネジメント―組織内一人親方に好ましい生態系の創り方―」をテーマに、これからも関島康雄のコラムを掲載していきますのでご期待ください。また、このコラムに関するご意見・ご感想もお待ちしております。
※ご意見・ご感想はメールにてお寄せください。メールアドレスは連絡先のページを参照願います。

Copyright since 2006  3DLearningAssociates All Rights Reserved.