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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.25  人材開発(4)ステークホルダーとHRMが創造できる価値 II

ラインマネジャーには「ビジネスモデル実行能力の向上」

 HRMがその力を十分に発揮することを期待されている分野の一つが、ラインマネジャーに対する支援である。ビジネスモデルも戦略も実行されなければ意味がない。お客さんに提供する価値を、「手ごろな価格で、かつ使い勝手がよい」という点に集約したとして、使い勝手の良さを実現するデザイン、そのデザインを可能にする構造や素材についての知識や技術が手元に準備されていなければ、ビジネスモデルは「絵に描いた餅」になってしまう。

さらには、競争に勝つために描いた戦略、例えば、「使い勝手の良い製品を競争相手より早く市場に投入する」を実現するには、「サプライ・チェーン・マネジメントを大幅にグレードアップしなければならない」というような課題の解決が必要になる。
経営は実行である以上HRMは、上記のような問題点の解決に努力するラインマネジャーを支援することが強く求められる。専門能力を高めるための教育機会の提供やマネジャーとしての能力を高めるためのリーダーシップやチームビルディング力のトレーニングがそれである。
 

コーポレート・ユニバーシティは実行力を高めるための武器

 しかし、個々の能力の向上を支援するに止まらず、より本質的な部分でビジネスモデルの実現を支援する仕掛けの構築もHRMが創造できる価値である。そもそも、お客さんは誰でどういう価値を提供するか、どうやって利益を上げるかという質問に答えるものがビジネスモデルだが、そこには幾つもの選択が含まれている。まずは、会社のビジョンと選択されたビジネスモデルの関係である。選んだビジネスモデルは会社を作った理由や目標に照らして皆の納得がえられるものであるかどうかである。この点に曇りなく皆の賛同が得られるようでなければ、ビジネスモデルは、「会社を成功させるための脚本」となりえない。

競争相手に勝つために選択された戦略も同様である。勝つための方策について意見がバラバラであれば実行はおぼつかない。従って、戦略を共有化するためには、なぜこういう顧客層を対象とするのか、提供する価値はなぜ「手ごろな値段と使い勝手」なのか、そういう戦略を採用すると本当に競争に勝てるのかなどなど多くの「疑問に答える場」が必要になる。

一方で、上記の「何故」に答えるためには、自己の持つリソースについての認識、すなわち、強みや弱みや、競争相手の強み弱み市場のトレンドなどを十分に理解することがどうしても必要である。2000年の前後に、多くの企業がコーポレート・ユニバーシティとよばれる教育組織を設立したのは、上記のような疑問を教育の場を通して解消、認識を共有化し、ビジネスモデルの実現能力を向上しようとしたためである。

 

従業員には自己のキャリアを追求する機会の提供

 企業が
1)こういうことをなしとげたいというビジョンを掲げ
2)こういう人が好きだと好き嫌いを明らかにし
3)こういう仕事をして欲しい
4)処遇については交渉しよう
と条件を示した上で、「働きたい人この指とまれと」と応募者を求めたとして、

それに応じる個人の方にも、上記に対応する条件がある。
1)こういう人生をおくりたいというキャリア観
2)自分の好き嫌い
3)キャリア目標を達成するのにふさわしい仕事
4)市場での自分の価格
がそれである。

両方の条件が一致して初めて労働契約が成立する。一致しなくなれば原則として、契約は解除される。双方が契約の期間が長くなるように努力する必要があることは、取引のコストという視点からコラムvol.21「処遇(8)21Cは、選び交渉する世界」で説明した。その観点からいえば、従業員に対してHRMが創造できる価値の最大のものは、キャリアを追及する機会の提供といえる。

問題は、子供のころからなりたいものややりたいことがはっきりわかっている少数の人を除いて、多くの場合、キャリア観はどちらかというとゆっくりと形成されるという事実である。又、「本当に好きなことは?」といわれるとすぐには答えが出てこないことで分かるように、好き嫌いも分かっているようで分からないことである。それゆえ、キャリア追求の機会を提供するというHRの仕事は簡単ではない。次回はこの点について考えてみよう。

 

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「21世紀型人材マネジメント―組織内一人親方に好ましい生態系の創り方―」をテーマに、これからも関島康雄のコラムを掲載していきますのでご期待ください。また、このコラムに関するご意見・ご感想もお待ちしております。
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