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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.36  人材開発(15)選抜制度を実行するために必要な工夫

選抜制度を実行するには、二つの計画が必要

 一皮むける経験をさせる人のリストができ、優先順位が決まったとしよう。取り敢えずこれを、サクセション・プランと呼ぶことにしたい。しかし、これだけでは育成計画は、実行できない。なぜなら、チャンスは突然やってくることも多いからだ。

例えば、前々から議論されていた海外に工場を建設する計画が、ある日現実のものとなったとする。工場長には、サクセション・プランにあるAさんをあてるとして、Aさんの後任をだれにするか、考えなければならない。Aさんがある製品Xの設計部長だとすると、X設計部長の後任候補は誰と誰、といったリストがあり後任が速やかに決定できるようでないと、Aさんを引き抜いて海外に赴任させることができない。この計画を後継者育成計画と呼ぼう。だれかに一皮むける経験をさせようとすると、上記の二つの計画が必要になる。

歴史的には、後継者育成計画のような仕掛けが先に出来、その後一皮剥ける経験の重要性がクローズアップされるとともに、サクセション・プラン型の考え方が登場した。
計画の呼び方はいろいろ(サクセション・プランも訳せば後継者計画。区別がつかなくなるため、一皮剥ける経験をさせる人の優先順位というニュアンスを持つものを、関島がサクセション・プランと呼ぶことにしただけ)だが、新しい選抜制度は、概念として二つの人材育成計画を統合したものでなければならない。

 

選抜研修は、一皮むける経験のための準備体操

一皮むける経験をするためには、困難な状況に直面する必要がある。例えば泳ぎを教えるためには、海に放り込んでしまうのが一番よいのだが、それではあまりに乱暴すぎる。心臓麻痺を起こしたり、脚がつってしまったりしかねない。やはり準備体操や事前の練習が必要である。同様に、人を選抜し困難な仕事に配置するには、「その準備作業としての研修」が必要になる。それが、選抜研修制度である。

先のキャリア開発上の分岐点に照らせば、レベル2に進む前に自分と他人のマネージの仕方を教え、レベル3に進む以前に、自分と他人及びビジネスのマネージの仕方を教えるというカリキュラムになることは理解できよう。自分をマネージするという課題も、自分だけをマネージすればよいときと、他人をマネージする仕事についたときでは、内容は、自然、異なってくる。後者の場合であれば、自分の感情をよりコントロールしなければならない。感情にまかせて部下を叱り飛ばしていては、良い結果は生まれない。仕事の結果が不満であっても、相手の状況を見ながら指導しなければならない。

又、グローバル企業であれば、他人のなかには外国人も含まれてくるので、異文化コミュニケーション能力も必要になる。自分とは違う価値観を持つ人と一緒に仕事をするには、語学力だけでなく、例えば相手の文化を尊重し嫌がられる行為をしないなど、一つ上の自己管理能力が求められる。準備体操の内容も、選抜される人のレベルと経験させようとする仕事の難しさのレベルに応じて設計されなければならない。

 

早い時期に、小さい成功や失敗を経験させる場が必要

一皮剥ける経験は、「会社にとって被害の小さい失敗を、できるだけ早い時期にするほうがよい fail cheaply and quickly」といわれる。成功体験も大切だが、やはり失敗は多くのことを教えてくれるからだ。しかし、いくら人材開発の上で必要でも、業績を大きく左右するような失敗を、責任ある地位になってからやられたのでは会社はたまらない。失敗するなら主任か課長ぐらいのときにやってもらいたい、それなら被害は少なくてすむということになる。

このとき必要なのは、そういう経験のできるポストである。どちらかというと会社のメインのビジネスではない分野で、組織のトップとしてビジネス全体を運営し、収支責任を問われるポストが出来るだけ多くあることが望ましい。そのような考え方になると、集中と選択という流行語に迎合し、子会社の数を減らしたり、事業分野を整理したりするのは、浅はかな考えといえなくもない。戦略理論でいうところのオーバーエクステンション、意図ある赤字がないと長期的には企業は成長できない。その理由の一つは、これらが「将来に繋がる失敗の場」を提供してくれるからであり、「人を育てる場」として活用できるからである。

 

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