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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.45  グローバルな競争と人材開発(9) フェーズ別の対応策

フェーズ1:海外要員プログラム基礎編を導入する

  海外で仕事をする上で基礎的に必要なことは、仕事に関する専門能力に語学と現地事情(地理、文化、歴史、法制など)である。それゆえ、フェーズ1にある企業の場合、まず語学、現地事情ということになりがちだが、語学は通訳、現地事情は詳しい人の採用という形で補うことができる。

補えないのは本人の行動様式である。典型的なのはマナーだが、高級なことではなく、礼儀にかなった挨拶や食事の仕方である。例えば、食事のときにクチャクチャ音をたてないように食べる、ひじをテーブルにつかない、皆と同じ速度でたべる、会話に参加するなどなど、常識的なことがきちんとできるように訓練すべきである。現在の日本はこういう訓練がおろそかになっていて、ちゃんとできない人が多い。
日本の歴史や制度の説明を求められる場合も多いので、選挙制度や大統領と首相の違いなど勉強しなおしておく必要がある。生半可な知識で説明し誤解を振りまくことは避けなければならない。

要はフェーズ1では、ほかの人によってカバーできないことは何かを考えて海外要員プログラムを作るべきであり、マナーのようなことは個人の責任としていては、海外事業の成功はおぼつかない。現地に家族で赴任する場合には、奥様に、現地でのご主人の仕事の内容を説明する機会を設け、協力を依頼する必要がある。同時に現地での生活を豊かにするために修得したほうがよい事柄(例えば、出刃包丁の使い方や健康管理に関する知識)について解説するとよい。言葉については、例えば英語のレッスンではなく英語で料理の作り方を教えてくれるコースをとるほうが、はやく言葉を覚えられるなどの事例を紹介、安心感を与えるようにすべきである。

 

フェーズ2(前期):立ちあげ要員の育成とトレーニーの増員

  海外の現地法人が増加するに従い、製造部門、管理部門からから海外に出かける人が増えてくる。この人たちがやがて海外でぶつかる問題は中小企業問題である。そのため、基礎編に加え、職能分野別に対応プログラムが必要になってくる。人事勤労分野でいえばたとえば、就業規則や賃金規則を作る能力の付与である。現地で採用した人材がそれらを作成するとしても丸投げにしないためには、自分で作る能力を持つ必要がある。しかし、就業規則や賃金規則はすでに自社では存在するので、作った経験はないのが普通である。

従って、改めて就業規則を作成せよという課題を与えると多くの場合戸惑うことになる。賃金に対する苦情処理や処遇制度の整備のためには職務分析能力も必要になるが、これも一部の人を除いて経験が乏しい。経理担当者が貸借対照表を自分で作ったことがないとか、原価計算はしたことがないとか、それぞれの専門職能ごとに上記に類する問題があり、これらを改めて海外要員とその候補生に教える必要がある。

この時期にいたれば、やがて海外事業がフェーズ2(後期)、フェーズ3と進む可能性が明らかになってくる。それゆえ、将来に備えて海外要員の層を厚くする施策がとられなければならない。海外業務研修生といった形でトレーニーとして海外に派遣したり、海外留学生を増やしたりするのがそれである。問題はコストがかかるので、どうしても人数が少なめになってしまうことだ。しかし、たらいの水を赤くしようとすれば、バケツで赤インクを入れる必要がある。スポイトで赤インクをポタポタたらしても効果は薄い。思い切ってトレーニーの数を増やす必要がある。広報、法務、人事勤労、経理、資材、知的財産、営業、マーケティング、研究開発、設計、生産技術、製造、検査、ロジスティクなど職能分野別に海外で仕事ができる人の層を計画的に厚くしていく努力が欠かせない。

数を増やさなければいけない理由の一つに、教育効果の問題がある。トレーニーとして海外に出したり、MBAをとらせたりしても、成長するのはその1/3程度で、歩留まりはあまり高くないのが実際のところである。100人だしても、ものになるのは30〜40人だ。異なる環境に適応するのが上手な人とそうでない人があるだけでなく、適応の仕方にも差があるからである。

例えば、米国流の仕事の仕方を学んだとしても、それが成立する条件についての理解が十分でないと、応用がうまくできない。米国流でないものはすべて間違っているとか、遅れていると判断するようになっては、帰国後問題を引き起こす。理論と実践の両方を経験して、初めて実際の場面で活用できるので、MBAをとれば直ちに経営ができるというものではないのは当然である。

せっかく勉強してきたことが生かされないと、帰国後の仕事に不平を漏らすようでは、成長は未だし、である。海外研修や留学の経験が活かせるポストに恵まれるにこしたことはないのだが、実際の職場では、人員配置の関係や業務の都合でしばらくは元の仕事に就くということはままある。だが、戦略論もマーケティング論も異文化適応の経験も、応用の範囲が広く、家庭生活や通常の仕事の質の向上にいくらでも使える。

知識は使ってみて初めて身につくものなので、身近な場面で使ってみればよいのだ。人材マネジメント上のルールは、教育を受けたかどうかで人を判断するのではなく、仕事で判断するのが原則である。それはグローバル人材の育成においても変える必要は少しもない。どんな仕事をしても海外で学んだ経験を役立てれば業績は向上するはずである。

次回はフェーズ2(後期)の人材育成について考えよう。

 
 

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