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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.59  組織(5)組織設計上の留意点III 分ければ固まる

分ければ、専門性は高まる

  分業化するのは、専門性を生かすことと、責任の所在をはっきりさせることにより効率を上げるためである。専門分野別に組織を分けると、分けられた組織内での情報の流れが外部よりは濃くなるので、自ずと情報の共有化が進み、結果としてノウハウの蓄積が起こる。その結果、専門性が一層高くなるというプロセスが定着する。新人もロールモデルとなる先輩が回りにたくさんいるので育ちやすい。だから新しい分野、今後重要となる分野の能力を高めようと思えば、専任組織を創るのが良い。
  しかし、分けたことにより固まるという問題も同時に発生する。我々の専門分野なので、他人は口を出さないでもらいたいといった姿勢や、仲間内だけの評価を気にするあまり、世の中の価値基準と離れた行動をするなどがそれである。

時として、餅は餅屋にまかせればよいとして周りの組織が、本来持つべき責任まで丸投げしてしまうケースも発生する。それゆえ、組織と責任の所在の関係について予め検討しておくことは、組織設計上欠かせない留意点の一つである。具体的事例で考えてみよう。

 

グローバルという名称を持つ組織の盛衰

  企業の組織図を時系列的に眺めてみると、海外事業の発展につれてグローバル、国際などの名称がついたものが増えていくことがみてとれるはずだ。コラムvol.39で述べた発展段階モデルの各フェーズに即して出現する典型をあげると、以下のようになる。

フェーズ1  輸出営業所、国際営業部、工場に輸出係
フェーズ2  国際事業部、○○事業部国際部
フェーズ3  ○○アメリカ(地域本社機能を持つもの)、
                管理部門に○○課長グローバル担当などといった職位生まれる
フェーズ4  本社にグローバル人事部

これらは、海外事業に関係する仕事を国内部門から分けることにより専門性を高め、効率をあげようとする動きの現れである。

 

「皆の仕事」は、「だれも取り組まない仕事」

  だが、海外事業が普通のことになると、海外関係を区分する意味は薄れ、国内部門との統合がはじまる。例えば、「海外からの資材調達は当然なので、いまさら国際調達部でもなかろう」という一見正しそうな意見が優勢となる。しかし、これが新しい問題を生む。

  区分されている時には、その分野の専門知識は情報の集積により次第に高まる。地域事情だとか先端的な取り組みがそれだ。集まった情報を整理のうえ全社的に伝達するのも仕事の一部である。しかし、統合されてしまえば、自分が担当する仕事を実行することが主でそれ以外のことは従になってくる。手数がかかる国際調達よりは慣れ親しんだ国内調達で結果を出すほうに努力は偏りがちになるし、自分が入手した新しい情報を他に伝達する仕事は後回しとなる。その結果、上記の資材調達の事例で言えば、「知的財産の購入に関するリスクの新しい回避手段」といった情報が、一ヶ所に集まらなくなり、専門性は高まりにくくなる。

  これまで日本企業は、円高になるたびに国際調達の必要性が叫ばれるが、喉もと過ぎれば熱さ忘れるで、しばらくすると国内調達が主流になるというプロセスを繰り返してきた。気がついてみれば、韓国などの競争相手に比べ国際調達比率は上がっていない。これは分けることによって責任の所在を明らかにするという機能が十分に働いていない証拠である。
すなわち、国際調達の責任部署の明確化が不十分であったか、あるいは早々と国際調達を「皆の仕事」にしてしまったかのどちらかが起こっていたのである。

  海外に関する専門組織を作ったり一般の組織に統合したりする際は、どういう種類の専門性をその組織は取り扱うのかを事前に十分検討しておかなければならない。分ければ専門性は高まり、一緒にすれば専門性は薄まるのだ。
 
 

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