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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.61  組織(7)組織設計上の留意点V フラットな組織

フラットな組織についての誤解

  縦の繋がりを極端に簡素化したものが、いわゆる「フラットな組織」である。通常「フラットな組織」が志向される理由は、組織の階層を減らすことにより意思決定を速くしたいため、あるいは自由な討議ができる環境を確保することにより革新的な成果を得たいためである。しかし多くの場合、期待は裏切られる。

  縦の分業を削減することにより縦の「分ければ離れる問題」は改善されるが、「分ければ固まる問題」であるwhat とhow の階層構造が失われるため、組織のメンバーがそれぞれ上位、下位の what と how を考えなければならず、戦略的な思考だけでなく実務的な実行プロセスについての知恵が求められるので、各人の業務上の負荷が大きくなる。そのためフラットな組織は、一定以上の能力を要する専門家で構成されなければ、機能しない。

  一方、縦の分業が簡素化されたため、横の分業の特徴点が普通の組織の場合より強く働く。情報の共有化、別な表現をすれば、誰に情報を伝達すればよいかという問題が、大きくクローズアップされてくる。縦の階層がはっきりしていれば上司に報告すればそれですむ。上司が必要なところに情報を伝達してくれるのだが、上司が少なく同僚の多いフラットな組織では、誰に情報を伝えるかを各人が自分で考えなければならない。「フラットな組織にすれば効率が良くなる」わけではないのだ。
 

上司が少なく、同僚が多いとどうなるか

  フラットな組織内の情報のやり取りについて、ある組織内の状況を1か月間トレースしたものの模式図が図表1である。(太い線は回数が多いことを示す)

これから分かることはA、Bは情報を多数の人に送っており、比較的初級レベルの人と考えられる(例えば新人)。情報が集まってくるのはC,D,E、F,Gで、この組織のコアになっている人たちであろう。その中でもEは、コアになる人全てに情報発信をしていて事実上の中心人物であることがわかる。DはEにだけ情報発信をしているので専門性の高いベテランあるいはEを梃に使って組織全体を見ているリーダーとも考えられるがこの図だけではどちらであるか判定できない。Fに集まる情報はA、B,ほか一名からだけなのにたいし、E,Gから情報をうけているので中堅といってもやや下位のクラスと考えられる。

【図表1】

  要はフラットな組織では、情報のやり取りにより階層が決まってくるという性質が強くなる。リーダーは自然に決まってくるので心配することはないのだが、リーダーが決まるまで時間がかかるので、それまでは仕事はごたごたしがちで、意思決定プロセスもはっきりしない。しかし各人の立ち位置が定まるにつれ連携プレーが円滑になる。情報を発信しないところには情報が集まらないので、情報を得るために発信するようになる。情報発信のインセンティブが高まり、指示されなくとも事象ごとに「あの人には連絡しておく方がよい」という判断を各人がするようになる。結果として、組織全体としての情報の共有化の度合いが高まる。
 

どこもかしこもフラットな組織というわけにはいかない

  上記の機能は職能の異なる組織との間でも、働くことは働く。しかし異なる組織の誰に情報を流したらよいかは、同一組織内よりも一層わかりにくい。連絡将校(リエイジョン・オフィサー)が、決まっていればよいのだが、事象ごとに第一に連絡すべき人は異なるはずで、ケースごとに複数の連絡将校が必要になる。こういう場合はこの人といったルールの明示も必要となる。どの組織でも通常、非常時の連絡ルートといったものが決まっているが、実際その場面になると機能しなかったという事例は枚挙にいとまがないのは周知の事実であろう。連絡将校制は、なかなか上手く動かないのだ。

従って、フラットな組織ばかりでは情報の伝達方式は複雑で上手くいかない可能性が高い。隣の組織が階層組織であれば、部長に連絡、課長に連絡といった方法でよく、判断は簡単といえる。どこもかしこもフラットな組織、ではなく、「特別メンバーの自律度が必要で、自由な判断が要求されるところだけをフラットな組織にするのがよい」というのが分業の理論からみた場合の組織論となる。

 
 

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