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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.63  組織(9)組織と戦略 II 優位性の活用か、それとも探索か

環境変化と競争優位性についての判断

  まったく新しく会社を設立する場合を除き、多くの場合、組織は既に存在する。それゆえ、大きな外部環境の変化があった場合、既にある組織を所与として変化に対応するためビジネスモデルを見直すのが普通である。

  環境条件の変化、例えば新たな競争相手が思わぬ分野から現れたといったような場合、どのように企業はビジネスモデルを変更するであろうか。デジタルカメラという新しい製品が市場に登場し、カメラ用フィルムの需要に影響が出始めたというような場合である。この時大切なのは、現在の競争優位性にたいする判断である。 

  カメラ用フィルムでトップシェアを維持していたコダックは、自己の優位性はフィルムの品質、世界中に広がったセールスネットワーク等にあると思っていた。そして、画質のよいフィルムをより買いやすい価格で提供すれば、デジタルカメラの普及にブレーキをかけることができると考えた。そこで現在の優位性を一層強化するため、化学部門を売却し中核事業であるフィルム部門に力を集中することにした。

  一方、富士フィルムは、デジタルカメラの画質は急速に向上し従来型のカメラ市場に浸透していくので、これまでの競争優位性はこのままでは失われてしまうと考えた。

新しい優位性を見つけなければならない。自己の持つ人材や技術の活かせる市場はどこかないか探さなければならない。化学部門の技術を活かし液晶や化粧品の分野に進出を試みたり、医療関係の分野のM&Aに資金を投じたりしたのはこのためである。

  コダックのとった戦略を優位性の活用型、富士フィルムのとった戦略を優位性の探索型と呼ぶ。

 

競争優位性の活用

  従来の優位性を活用して環境の変化に対応しようとする場合、優位性に関連する情報が大切である。円高という環境変化に対応し、低コストという優位性を活用するには生産性に関する情報、たとえばサプライチェーンについての情報や部品メカーに関する情報が素早く入手できなければならない。

また、特定の製品の製造上で生産性の改善に関する新しいノウハウが発見された場合、そのノウハウは別な製品の製造にも素早く応用されるようでなければならない。改善の横展開がしやすい分業、すなわち製造部門間の相互依存性を高めに維持できる組織構造A(architecture)が望ましい。この場合は、製品部門の下に製造部門があるのではなく製造部門の下に製品別の組織があるほうがベターということになる。

生産技術部門の横串機能を高くする業務プロセスというR(routine)、横展開は当然という文化C(culture)も必要であろう。組織のA,R,C,は優位性の活用というニーズに即して継続的に改善されなければならない。

 

競争優位性の探索型

  新しい優位性を探す場合は、当然のことながら特徴点を活かせるような製品、顧客、市場に関する情報が大切である。写真用フィルムを作っていたおかげで蓄えた技術が液晶に使えないか、化粧品には応用できないか、医療関係はどうだろうと幅広く情報を収集する必要がある。

組織のA,R,Cはこのニーズに即して変革されなければならない。組織間の相互依存性が弱いA、変革のプロセスは中央集権的ではなく各部門がいろいろ実験することを認めるというR、非公式な研究いわゆる密造酒づくりはOKといったCなどで組織が出来ている必要がある。

  結果的にみると、デジタルカメラの出現という変化への対応としては、富士フィルムの方が正しかったといえよう。しかし、誤解しないで欲しいのだが、コダックと富士フィルムの例を挙げたからといって探索型が良いといっているわけではない。トヨタは活用型で強いのだ。どちらを選ぶかは状況の判断とビジネスモデルの選択による。

次回は活用型、探索型それぞれにふさわしい人材マネジメントについて考えてみたい。
 
 

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