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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.68  組織(14)組織と戦略VII 緊急展開部隊が成立する条件

戦略眼のあるミドルの存在

   威力偵察を行うためには偵察を行う部隊の将校が、戦闘指揮能力と戦闘全体を見渡す戦略眼を持っていないと敵の意図を見抜くことはできない。同様に、有望なビジネスモデルを見つけるには、実務能力と戦略立案能力の両方を持つ人が必要である。

   変化の激しい時代には、戦略立案に必要な外部条件を与件とすることはできないので、事前に合理的な計画を立てることは困難を伴う。最も起こりそうな場合、最悪の場合などなど、シナリオが何本も必要になってしまう。事後的に決まる戦略の方が実情に即することができるのだが、問題は「誰が戦略を発見するか」である。

事後的に決まる戦略の場合、発見したことに素早く反応することを求められるので、本社に集められ加工された情報を待って判断するのでは遅すぎる。フレッシュな情報から変化を読み取り、戦略を創出できるようでなければならない。この役割が現場の前線で活躍するミドルに期待される。

   だが、ミドルが戦略を発見したとしても、それを直ちに実行に移せるインフラがなければ、即応性は発揮できない。予めそのような事態に対応できる部隊を整備しておく必要がある。その準備が緊急展開部隊を持つというA(組織構造)である。

 

二兎を追うためのR:出動に必要なルーティン

  一方、緊急展開部隊を持っていたとしても、その部隊を出動させるのは、どんな時かというR意思決定のルール(手続きや判断基準)が決まっていなければ、すみやかに出動させることが出来ず、勝機を逸してしまう。出動に必要な手続きがルーティン化されていなければならないのだ。

  緊急展開部隊を出動させる時期とは、新しいビジネスモデルがぼんやりと見えたときである。これは丁度、ベンチャーキャピタルがビジネスに投資をするかどうかを決定する時期と同じころである。通常、日本企業が投資を決定する社内手続きは、常務会などへの提案が必要で、そのため関係部署などにいろいろ根回しが必要になり時間がかかる。

  この問題を避けるため、新規事業開発室などの名称を持つ組織を作り、新規事業案件だけ迅速に審議する仕掛けを設けるケースはよくある。この仕掛けがあまり機能しないのは、そもそも企業に所属しながらベンチャービジネスに従事するというのでは、リスクのかかり方に大きな違いがあるので、旨く機能しないケースが多いのだが、新規事業開発室をベンチャーキャピタルとして扱えば話は少し違ってくる。

a) 独自の基金を持ち使い道を判断させる。
b) 責任者は、将来のCEOと目される人で、失敗すればその道はなくなる。(1勝9敗でも1勝で大きく稼ぐことが出来ればよいので学習のチャンス大)
c) 緊急展開部隊は、困難な場面に投入しリーダーシップなど将来の経営幹部としての資質を判定する場であるということを明確にしておく

などの条件を整備すればよい。要は、「社内ベンチャーキャピタルの出資決定により緊急展開部隊は出動できる」とするのである。

 

二兎を追うためのC:チャレンジを支援する文化

  緊急展開部隊が機能するためには、一定の文化が必要である。従来型のものの考え方からすると、リスクが多いとみなされがちのミドルの提案にたいし、サントリーの事例であげられるような「やってみなはれ」とリスクをとってくれるトップとか、チャレンジを奨励する企業文化の存在である。日立製作所の場合も「コンピュータを造ってもよいとは誰も言わなかったよ」という話が残っているが、密造酒づくりは認めるという文化があった証拠と思う。

  もう一つ必要な文化は、先頭に立たないリーダーシップである。答えが直ぐには分からない難しい問題(例えば、事後的に戦略を発見するという難問)を解決するためには、人々の知恵を集める必要がある。この場合、リーダーの役割は大勢の人に自由に意見を言うことができる環境を整備することでなければならない。

ホンダの「ワイガヤ」(ワイワイ、がやがやの略)などは、そういう文化の存在を示す一例であろう。活発に議論する文化があれば、ミドルも提案がしやすく、情報が共有化されているので決断も速いし、リスクの大きさの判定もしっかりできるということである。

  さて、組織についての議論が長くなってしまった。そろそろ別な切り口から組織内一人親方に好ましい生態系を考えるころあいと思う。次回以降は新しいテーマで議論しよう。

 

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