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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.79  HRM戦略(11)まとめ

HRM戦略に関する素朴な質問

  いろいろ説明してくれたけど、「HRM戦略って結局なんのこと?」という質問を良く受ける。通常、人事・勤労業務に携わる人は、新規採用や給与改定やコンプライアンス対応などの業務に忙しく、戦略という世界からほど遠いところで仕事をしているためである。しかし、現代の競争の特徴がビジネスモデルによる競争であり、HRMもビジネスモデルの成功に貢献することを強く求められていることが、ビジネス感覚として理解できれば、話は違ってくる。そこで改めてHRMの位置づけについて整理してみよう。

 

HRM戦略の位置づけ

  そもそも戦略とは、遠くの丘の上の旗(ビジョン)という目標に到達するための道筋を描いたものである。道筋を描くにあたっては、(1)外部コンテキスト及び(2)内部コンテキストの両方を考慮にいれ、(3)途中の障害物や競争相手の動きを想定、対応策を考えることになる。このプロセスに従って企業の戦略が策定されたとして、この戦略の実行を可能にするのに必要な能力をどのように獲得・維持するかが次の課題となる。

この課題に人の面からアプローチする(人材の確保、組織の構築、ビジネスモデルに適合する企業文化の醸成等)のが人材マネジメントHRMである。HRM戦略は、HRMの目標に到達するための道筋であるので、当然のことながら策定にあたっては上記の(1)〜(3)のプロセスが実行されなければならない。では、上記についてこれまでの議論で明確になったと思われる部分を整理してみよう。

 

企業戦略のトレンド

  21Cの外部コンテキストは、世界中に競争相手とサプライヤーがいるという条件下でのビジネスモデルによる競争で、複雑性の制御と量への対応が不可欠というものである。内部コンテキストはそれぞれの企業が持つ有形無形の資産ということになるが、戦略の策定にあたっては、大きく分けて二つの類型が存在する。

事前に決まる戦略と事後的に決まる戦略である。遠くの旗であるビジョン・ミッションを事前に決め、それに到達する道筋であるビジネスモデル(お客さん、提供する価値、競争の勝ち方)を自由に設計し、ビジネスモデルの実現に必要な人・モノ・金は、市場から調達するのが前者で、欧米企業に多く見られる方式である。

一方、現在所有するリソースと外部環境をくらべ実現可能と思われるビジネスモデルを選択し歩き始め、その途中で発見した戦略を実行するのが事後的にきまる戦略で、日本企業はこのパターンが多い。この戦略の決定方式の違いはHRMに影響をあたえ、前者はオンデマンド型、後者は改善型が標準型となる。

 

オンデマンド型HRMと改善型HRM

  オンデマンド型は必要に応じ人材を外部から集めたり、減したりするので、内部の人材を育成する能力より円滑に採用を進める力や削減する能力の方が重要になる。そのためにブランド力、資金力が必要となる。労働市場の流動性が高い地域を立地として選ぶのも対応策の一つ。急ぐ場合はM&Aを活用する。考え方はダークサイド的。

  一方改善型は、手持ちのリソースでスタートするが、発見された戦略に対応する場合は、リソースの組み替えを迅速に行うことが求められる。このためHRには変化をリードする能力が必要になるし従業員も変化に対応する能力が不可欠となる。多能工化、抽象度の高いキャリア観の醸成、組織としての学習などにHRMはフォーカスする必要がある。考え方は、正義の味方派。

ただし、発見した戦略を実行するのに時間がない場合(競争相手がすでにその方向に進んでいて簡単には追いつけそうもない場合)はやむを得ずオンデマンド型に切り替えることもありえる。

 

外部コンテキストが求めるのは複雑性の制御

  グローバル化の進展にともない世界中に競争相手とサプライヤーがいるというのが外部コンテキストの大枠である。グローバルな環境で闘おうとすると、複雑性の制御が課題となる。多様なニーズに応えざるをえないためである。このことが企業戦略にインパクトを与え、それがHRM戦略にも大きく影響する。複雑性の制御のための対応策は二つあり、一つはプラットフォームと機能デバイスという区分。

プラットフォームに相当するのは、ビジネスモデルが必要とする(あるいはビジネスモデルにふさわしい)企業文化。企業文化とは仕事の進め方についての好き嫌いのことであるので「優秀」の意味は企業によって異なる。複雑性の対応策の二つ目は、変化に対する即応性を上げる方策で、行軍速度の重視、クラスターの活用、緊急展開部隊の整備などがある。

 

戦略目標は、組織内一人親方の数と先頭に立たないリーダーシップ

  HRMの最上位の戦略目標を一言でいえば「世界中の競争相手と闘って、優秀な人材を確保する」となるが、これだけでは目標がはっきりしないのでもう少し具体な説明が必要である。複雑性に対応するために即応性が求められるとすると「ベンチのサインをいちいち見ないでも仕事のできる専門家、いわゆる組織内一人親方」が不可欠で、その数を増やすことが勝つための鍵になる。

よって、組織内一人親方の育成に役立つ施策の整備が、具体的戦略目標になってくる。二兎を追いかけることを当然視する気風や選択肢が多いキャリアパス、職位に関係なく一人一票という意思決定方式、振り返りの習慣化などがそれである。

  一方で、これらの専門家に十分に活躍してもらうためには、多様な意見がぶつかり合う場を創ることが大切で、そのためには「先頭に立たないリーダーシップ」が優秀な人材の定義に含まれる必要がある。しかしこのコラムでは、リーダーシップについては、これまであまり詳しく議論してこなかった。そのため、「先頭に立たないリーダーシップ」といっても読者には何のことか分かりにくい。

日本では長い間リーダーシップということを軽視したり、遠ざけたりしてきたので、リーダーシップについて十分に理解されていないという背景もある。実は21C型人材マネジメントでは、戦略に並ぶ重要なテーマの一つがリーダーシップなのだ。ビジネスモデルも戦略も実行しなければ意味がなく、実行しようとするとリーダーシップが必要だからである。次回以降この問題に取り組むことにしたい。

 

 

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「21世紀型人材マネジメント―組織内一人親方に好ましい生態系の創り方―」をテーマに、これからも関島康雄のコラムを掲載していきますのでご期待ください。また、このコラムに関するご意見・ご感想もお待ちしております。
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