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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 

VOL.87  リーダーシップ開発(8) リーダーとフォロワーの関係に着目

信頼は貯金のように貯まるのか

  リーダーがフォロワーの信頼を得ようとして努力したとして、本当に信頼は蓄積されるのだろうか。信頼蓄積理論では、リーダーが従来型の仕組みの中で業績を積み重ねることにより信頼を高めていくと考えたが、そんなにうまくいくはいかないとB.J. コルダーは言う(リーダーシップの帰属理論1977)。なぜなら、人は、「成功は自分のお蔭、失敗は他人のせいにする」という傾向を持つので、簡単にはリーダーの努力の結果と認めないからだ。それ故、リーダーのお蔭とフォロワーが認めるためには、リーダーの行動が他の人と違って際立って優れていなければならないとする。

コラムVol.84「リーダーと普通の人は何処が違うのか 」でリーダーと普通の人の違いは、構造づくりと配慮というオハイオ州立大の研究を紹介したが、それだけでは不十分で、「リーダーの優れた行動があった(原因)ので、上手くいった(結果)」というロジック(因果関係)が皆に認められなければならない」という主張だ。
フォロワーはジッとリーダーの行動を観察しているのだ。となると、リーダーの行動が立派である、優れている、際立っているという定性的表現の中身が問題になる。
 

サーバント・リーダーシップ

  ロバート・グリーンリーフは、リーダーの行動が立派であると思われるのは、フォロワーという集団の利益のために尽力してくれていると受け止められた場合だと考えた。(1977)まるで召使いであるかのように努力するという意味で、サーバント・リーダーシップ理論と呼ぶ。コラムvol.81「リーダーシップとは何か」で軍隊の指揮官養成について触れたが、このことは軍事ではよく知られたノウハウで、元マッキンゼーのコンサルタントでノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院教授を務めたロバート・P・ニューシェルは、その著書 The Servant Leader (訳 ケロッグMBAスクールで教えるリーダーシップ・エッセンシャル 生産性出版)で軍隊時代「指揮官は部隊に奉仕せよ」と教わったと書いている。

ただし部隊のミッションを明確にすることが伴うことは言うまでもない(コラムvol.85「効率を上げるには何が必要か」)。ミッションにたいする共感や部隊の一体感がなければ、命をかけることは難しいのは明らかである。

 

リーダーは、変えるときに必要

  リーダーとフォロワーの関係が、「優れた行動」に対して「信頼」が生まれるとか「奉仕」が「立派」という評価を生むとか説明されると、なにやら物々交換か取引のようで、面白くない。リーダーシップとは、もう少し何か望ましいものではないか。そういう質問に答えたのがJ・M・バーンズである。

バーンズは、リーダーの行為の見返りとしてフォロワーに協力してもらうのではなく、時代が求めている大きな変化を創り出すために、フォロワーに働きかけるのがリーダーの仕事だと考えた(1978)。変革型リーダーシップの先駆けとなった考え方である(前出書、金井)。

  しかし、変革型リーダーシップ論が盛んになるのは、もう少し後の時代である。それには、もう一度基本的な質問「リーダーと普通の人はどこが違うのか」に戻って考えなければならないと思うような事件が必要であった。それが日本との競争である。企業の競争力となると、前に検討された監督者的リーダーより経営にかかわる人を対象とせざるをえない。リーダーと目されるような出来るマネジャーは、「どんな風に仕事をしているのだろうか」。

 

マネジャーの仕事

  この質問の答えは、リーダーシップとは何かを考える上でも、戦略とは何かを考える上でも、知りたいことである。戦略論側の研究では、ハーバードの教科書に纏められているような正しいやり方はしていないとヘンリー・ミンツバーグは指摘した。(The Manager’s Job: Folklore or Fact 1975)すなわち、計画学派が考えるような計画立案や統制といった「事前によく考えるべきこと」には、実際はあまり注力していないという指摘である。(よって、戦略は初めから形成されるのではなく、徐々に創られる、あるいは発見される、という理論につながる)

  一方、リーダーシップ理論の方は、ジョン・P・コッターが上級マネジャーは、事業活動を進めるのに必要な課題(非公式なものも含みアジェンダとコッターは呼ぶ)の設定と、その実行に必要な人的ネットワークの構築に努力すると指摘。(the General Managers 1982)理由は、外部環境は予想しがたく、また実行には、自分の権限が及ばない人を含めた、多くの人の協力が必要なためである。この考え方は、「実行する」ということに着目している点でミンツバークと共通している。

  このようにして、「出来るマネジャーはどんな風に仕事をしているのか」と言う質問は、戦略論では創発的戦略論を、リーダーシップ理論では変革型リーダーシップ理論を生みだした。次回は変革型リーダーシップ論が盛んになる背景を、戦略論を中心に見てみよう。

 

 

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