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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.96  企業文化(2)企業文化の違いは、国別の文化の違いより大きい

ニューヨークと東京の人の歩く速度はよく似ている

  個人的な感想だが、初めてニューヨークに駐在員として赴任した時、人の歩く速度が、東京とほぼ同じという印象を持った。すぐ気が付いたわけではなく、アトランタに出張した時に空港で歩くテンポが違うと感じ、その後サンフランシスコで、やはりニューヨークと少し違うなと確認した。都市によって人の平均的な歩く速度は違うのだ。ニューヨークと東京が同じとはいっても、ニューヨークには3拍子で歩く人が多く、東京は概ね2拍子、という違いは存在するのだが。

   このように人々の行動は、周りの環境に影響を受ける。企業文化の母国の影響を受けざるを得ない。その影響の程度はどのくらいなのであろうか。この点についてヒントを与えてくれるのが、99年から2004年にかけてMITの産業生産性チームが取り組んだ、グローバル化がビジネスに与える影響についての研究である。
 

MITの産業生産性チームの研究

  通常、企業は自分の国に軸足を置いて事業を展開する。他の国にも活動の拠点を作るのは、自国でそれなりに成功をおさめた後である。よって、企業文化は、自国の文化の影響が抜きがたいのが普通である。グローバル化が進むと競争の仕方も影響を受ける。企業文化も変化せざるを得ないのだろうか。

  この当時、グローバル化が進めば、社会制度や経済構造が一定の方向に収斂化し、世界は均質化を迫られるという意見(ボーダーレスな世界説 convergence model)と、アメリカ・イギリス型の自由主義的市場経済、ドイツ・日本型の協調主義的市場経済のように国別に資源配分の方法が異なってくるという意見(国別資本主義多様化説 national varieties of capitalism model)の二つが有力であった。しかし、MITの研究結果はどちらも当てはまらないという。

  MITの答えは、それぞれの企業が過去の経験から育んだ自分の資産を活用して市場に対応する、というものだ(動的遺産モデルdynamic legacies model)。 資産には企業文化も当然含まれるので、この答えは、グローバル化が進んでも企業は自分の持っている技術や人材、文化で世界と闘う と結論である。むろん企業文化は、国の文化の影響も受けるので、国別資本主義多様化説も否定はしていないが、地域別の差よりも、個別企業の差の方が大きいと結論している。

最近では中国のような国家主導型市場経済(モデル?)もでてきているので、国別説の仲間は増えているが、中国企業という特質よりは例えばIT企業といった特質の方が事業の進め方に影響力が強い、というのは納得できる結論である。

 

企業文化とは何か

  MITの研究は、「企業の経験だけでなく社会の様式によっても特定の資源と競争力は生まれる」と考えているので、国の文化も競争優位性に関係があるとしている。米国の場合は、イノベーションが起きやすい開放的でチャレンジ精神を尊ぶ風土をあげているが、日本の場合は、労働は苦役ではなく、人間を高めるものという受け止め方であろう。現代的に言えば、「仕事は大変だが、面白い」になると思う。大きなイノベーションは得意とは言えないが、改善の積み重ねで効率を上げていくのは上手な企業が日本に多いのは、この風土が引き継がれているためと考えられる。

  引き継がれる風土は、良い物ばかりではない。当然弱点も含まれる。米国の場合は反知性主義とよばれる、自分の感覚で判断できるものだけを信じ、学問的な研究などに信を置かない姿勢はその代表であろう。進化論は神が人間を創ったというキリスト教の教えに反するので学校で教えてはいけないとする地域はまだある。日本の場合は、「論理ではなく空気で決めてしまう」ではないだろうか。太平洋戦争がその典型的な事例としてしばしば挙げられるが、最近でも築地市場の地下構造は、誰かが決めたのではなく空気で決まったと都の第三者委員会は結論した。

  個人個人は職務に対する責任感が強いのだが、組織になると、一挙に無責任性が増すのは,「和をもって尊となす」日本文化が影響している。もっとも、「和をもって尊」は、激しい議論が前提で、日立製作所の場合は、ケンカになるほど激しく意見を戦わせ結論に至った後は、ノーサイド、議論に負けた方も気持ちよく結論に従って行動してほしい、という意味で「和をもって尊」と教わった。
こちらの方なら空気で決めた場合とは異なる結論になると想定できるが、どうもこの解釈は少数意見の感じがする。

 

 

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