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3Dラーニング・アソシエイツ

コーヒーブレーク(7)

 
ブレンド型 e-learning の開発I
  2011年、一年を通して取り組んだ課題の一つに、「ブレンド型e-learningの開発」がある。どうしてそういうことになったのかというと、2010年の年末に北海道大学工学部(院)から、小生が担当する「ビジネスパーソンとしての基礎知識(7コマ)」を、ブレンド型e-learning化したいという話があり、そのためのシナリオを作成するという仕事を、引き受けたためである。これが予想以上に工数が掛かり、とんでもない不良受注となったのだが、一年間かけて、なんとか実際にブレンド型の授業を実行するところまでこぎつけることができた。お陰でいろいろなことが勉強できたので、コラムを一休みして、Ah-Ha(チームビルディングの技術で紹介した、経験から学んだ事柄、あぁそうだったのか)の整理をしてみたい。
 

なぜ e-learning は普及しないのか

  e-learning は、「いつでも、どこでも学習できる手軽な学習方法」と喧伝される割には、思ったように普及していない。「いつでも、どこでも勉強できる」ということは、「いつになっても、どこにいっても勉強しない」ということと等しいので、誰もすすんでは勉強しないから、そもそも「手軽な学習」というコンセプトそのものに問題があるのだが、それ以外にも普及しない理由はいろいろある。

  e-learning の問題点を大きく区分すると、コンテンツに関する問題と学習管理 LMS Learning Management System に関する問題に区分することができるが、最大の問題は、コンテンツとLMSの両方を理解した上で、上手に脚本を書くことができるシナリオ作家の不在である。そのため、教育プログラムとしての完成度が低く、せっかく取り組み始めても、プログラムを最後までやらずにあきらめてしまう人、マラソンでいえば完走しない人が続出する。

  ブレンド型e-learningは、e-learningが持つ欠点をクラスル−ムと組み合わせることにより解消する一方、クラスルームだけの授業より効率を高めようとするものだ。そこでまず現行のe-learning が持つ問題点を整理してみよう。

  

コンテンツが面白くない

  完走できない理由は一言でいうとe-learningの内容が面白くないためである。それには理由がある。

(1)面白い内容にするためには、ストーリーや画面構成、動画や音声にお金をかける必要がある。経験的には、1000万円以上かけないと良いものはできないといわれているが、そうだとすると投資回収が簡単ではない。(受講料一人5000円として2000人以上が受講しても制作費用がまかなえるだけで、運営の費用などを考慮すると赤字)

(2)教える内容が、規則だとか用語だとか「教えやすいもの」に偏っていて、そもそもあまり面白くないものが多い。また、学習の必要性や学習目標に対する説明が不十分で、学習に対する動機づけが不足しているため、やらされ感が強く、面白いと感じにくい。

(3)遠隔地教育Long Distance Education という本来の使い方ではなく、どちらかというと、「これをいついつまでに勉強しておくこと」といった指示や、導入教育の代わりにe-learning を使うことが多く、学習したかどうかは受講者まかせになっている。結果を問われることがないので、達成感が生まれにくい。
 

LMSの柔軟性が不十分

  (1)学習効果を高めるためには、理解度テストやクイズにより、各人別に学習の進捗度を把握し、十分理解しないまま先に進んでいる場合や、ところどころだけ学習しているようなケースには、注意を促し、時に、元に戻って学習させなければならない。成績評価をおこなう場合は不正防止にも配慮が必要だが、そのような学習管理システムを作ろうとすると費用がかさむ。(市販のものは一通りの学習管理ができるだけで、一人一人の受講生を細かく面倒見するには、柔軟性が不足しているものが多い)

(2)ふりかえって学習する場合、教科書であれば、「このあたりに書いてあったのでは」とページをぱらぱらとめくって、確かめたい事項を探すことができるが、そのような操作がむずかしい。(音声の部分をカットして飛ばし読みできる、任意のページに戻れる、目次や小見出しの検索が簡単、などの機能が必要)

 

シナリオ作家の不在

  (1)学習ニーズの高いテーマ(例えばキャリア開発とかリーダーシップとか)を取り上げようとすると、抽象度の高い概念(例えば、自分らしいとはどういうことか、ビジョンとは何かなど)をいろいろ説明する必要がでてくる。このような場合、受講生はどのような概念を理解しにくいのか、どのように説明すると分かりやすいのかを知った上でシナリオを書く必要がある。クラスルームでの授業経験が豊かな教師がシナリオを書ければよいのだが、シナリオ作家としての訓練は受けていないのが普通。

(2)ユーザーフレンドリーな e-learningを作るためには、コンテンツの作り方(どのような画面構成であれば分かりやすいか、1画面に織り込む情報量はどの程度にすべきかなど)と使用するLMSの機能の両方を十分に理解したうえでシナリオを書く必要があるが、そのようなシナリオ作家はまれなため、現状は使い勝手の上で問題があるe-learning が多い。

では、今回作成のブレンド型 e-learning は、以上のような問題点をどのように解決しようと試みたのだろうか、それについては次のコーヒーブレーク(8)で詳しく議論しよう。

 つづく
 
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