ホーム  
3Dラーニング・アソシエイツ

コーヒーブレーク(13)

 
軍事と戦略

ゲティスバーグの戦いを実地学習

  ワートンのリーダーシップコンフェレンスのスピーカーには軍関係者が含まれるケースが多い。今回はウエストファル国防次官(Under Secretary, U.S. Army)、一昨年はマイヤー統合参謀本部議長が登壇した。アメリカはビジネスと軍事の関係が近いというよりも、軍関係者はリーダーシップや戦略論に詳しいという方が当たっている。

今回の発表でも、コンサルタント会社Deloitte のペルスターさんWilliam Pelster, Managing Principal of Talent Development から、2011年にオープンしたDeloitte University の活動の紹介があったが、経営戦略の授業で、南北戦争の勝敗を分けたゲティスバーグの戦いを実地で学習するという話があった。ペルスターさんは元ワートンのVPで日立の我孫子研修所を訪問されたことがあり、そのこともあって熱心に聞いたのだが とても示唆に富んでいた。

  ゲティスバーグでの授業は、陸軍大学校Army War College の協力をえて行われるが、テーマは、「戦略とその実行の重要性」で、環境が変化した時どのようにリーダーシップの発揮の仕方を変えていかなければならないかを考えさせるのが目的。特に危機に直面した場合、ビジョンをクリアーに伝えることが、いかに大切かを教えるというものであった。

  経営戦略論の根っこには軍事戦略論があるから当然なのだが、戦争は勝ち負けという形で戦略の良し悪しが結果にでるので、論理の検証、判定に都合が良く、そのため経営戦略の教材には好適ということであろう。残念ながら日本では関ヶ原の戦いを教材にしているという話は聞いたことがない。
  

HR関係者は、行軍速度という概念が不足している

  今年の夏、「HRマネジャーのための戦略論入門」というセミナーを開催した。戦略論はビジネスを計画実行するうえで有用な道具だが、個人のキャリアデザインや家庭生活にも十分活用できる。上記セミナーの最後の会合で、「習ったことを実際に使ってみる」という意味で、自社のHRマネジメント戦略あるいは個人のキャリア戦略を策定するワークショップが設けられていた。そこで非常に気になったことは、策定された戦略に行軍速度という概念が十分に取り入れられていないという点だ。

行軍速度とは、例えば敵の弱点を見つけたとして、そこに一定の時間内に兵力を集中するために必要な進軍速度のことである。時間がかかれば、その間に敵は弱点の兵力を増強してしまうかもしれないので、勝敗を左右する重要な条件である。「選択と集中」は、よくきくフレーズだが、行軍速度を考慮にいれないと成功はおぼつかない。いったいどうして、大事な行軍速度と言う概念がHR関係者に不足するのであろうか。理由は「ものの評価の仕方にある」と思う。

 

「結果は十分でなくても努力は評価」が間違い

  日本のHRMは正義の味方的傾向が強いと指摘したが、その延長線上に「目的が正しくて、本人がまじめに努力していれば、いずれ結果はついてくると考え、高い評価を与える」という傾向がある。結果よりもプロセスを大事と考えるのだが、これが行軍速度の軽視に繋がっている。事例をあげよう。
  グローバル化の時代には英語が出来なければと考え努力する人は多い。ある人は毎日20ページ経営に関する英語の本を読む目標を立て実行している。一冊読むのに3〜4ヶ月かかる。上司も周りも、立派と評価している。これが良くない。一体、グローバルな環境で仕事をする上で必要な英語の読解力とはどの程度のことであろうか。
簡単に言えば、東海道線で横浜から東京に行くまでの間に英字新聞ヘラルドトリビューンをざっと読める力であろう(おそらく日経なら読めるはず)。ビジネスウィークのような雑誌の斜め読みでもよい(週刊文春ならできる)。一日20ページ難しい本を読むことで、これが出来るようになるであろうか。
 

結果軽視は、ある意味で無責任

  英語を読む力を付けようと思えばたくさん読むことが必要で、1万ページ読んでほんの少し実力アップというペースではないか。次のページ次のページとページをめくりたくなるような本を選び、2~3週間で読まなければならない。考え方を深めるための精読とは違ったアプローチが必要である。

  目標に何時までに到達するか、そのためにどんな努力が必要かを考えない計画は、時に時間の浪費や敗北につながり、ある意味で無責任である。プロセスを重視することにより日本の製造業は成功をおさめたが、世界中に競争相手がいる時代にはそれだけでは十分でない。動機の善良性だけでなくもっと結果を問わなければならない。勝ち負けという結果がはっきりした戦争の歴史から学ばなければいけないことはたくさんあるといえる。
 
前のコラムへ バックナンバー一覧 次のコラムへ

※この関島康雄のコラムについてのご意見・ご感想がございましたら、メールにてお寄せください。
   メールアドレスは連絡先のページを参照願います。

Copyright since 2006  3DLearningAssociates All Rights Reserved.