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コーヒーブレーク(38)

 
長寿命化とキャリア戦略1 長寿命化により起こる問題

初めに

  「キャリア戦略」を出したおかげで、最近、「エルダー」という高齢者向けの雑誌のインタビューを受けた(3月28日掲載の「お知らせ」参照)。趣旨は、「個人の職業生涯の期間が長くなるにつれて、定年後の働き方まで見据えたキャリア観が必要になると思われるが、個人や会社はどのように対応すべきか意見を聞きたい」であった。

  この質問に対する立ち位置は、自律型プロ人材に育つ必要があるという点では同一だが、問題点については関島とエルダー(これまでの記事の内容から判断すると、だが)では焦点の当て方が、今のところ少し異なる感じであった。この点についての説明から「長寿命化とキャリア戦略」という新しいシリーズを始めたい。

 

「65歳までの継続雇用問題は、もはや大きな問題ではない」が関島の意見

  当面、会社や個人が直面している問題は、年金支給開始が65歳からに伸びたことに対応し60歳の定年後の雇用をどうするか、である。会社側は65歳までの雇用を保証するよう要求されているが、人手不足もあり働き続けてもらうことに反対ではない。しかし、「高齢者の働く能力の状況には個人差が大きく一律の労働条件の適用が難しい」、「継続雇用が若い人の昇進の妨げになりかねない」という二つの懸念を持っている。

この問題を避けるため多くの場合、継続雇用時にポストからの解任と給与水準の切り下げが行われるのが普通である。この措置は個人の側からみると、従来と同じ仕事をしているのに給与が下がるのでは、しょうがないとは思うが元気はでない。後進の指導という名目は美しいが仕事の充実感は従来に比べれば不足する。継続雇用制度の正当性という面では、同一労働同一賃金の原則から見て疑問なしとはしない。
エルダー誌には、この問題を解決するための、いろいろな制度や運用上の工夫が紹介されているし、52歳ぐらいから定年後のキャリアの準備をするべしと、成功者の事例なども紹介されている。

  この問題についての関島のスタンスは、「問題点が明らかになった課題は、やがて解決される」というもので、問題点が整理された時点で問題の70%は解決されていて、既に大問題では無くなっていると考える。

 

問題は2つ以上のキャリアが必要な時代に対処する準備が個人も会社も出来ていない点にある

  長寿命化の問題点は「65歳までの雇用をどうするか」ではなく、現在のマネジャークラスの人は1つのキャリアでは不十分で、2ないし3のキャリアを持つ必要が出てくるというのに個人も会社も準備が進んでいない点にある。2つ以上のキャリアが必要になる理由は以下である。
  1. 現在80歳前後と考えられる平均寿命は、今後90歳前後まで伸びると思われるが 年金プラス預金では、長寿化にともなう費用を賄えない。年金は支給期間が延びる のと、生産年齢人口の減少による保険料の減少により、支給開始時期を遅らせるか 支給水準を切り下げなければ財政が持たないので、減りこそすれ増えることはない。

  2. 仮に80から90に寿命が10年延びたとして、この費用を賄うためには現在65歳まで働くという前提を75歳までに変えなければならない。とすると、現在抱える継続雇用の問題点(能力差、ポスト問題)はさらに深刻化して残る。

  3. 現在までの定年到達者は、これまでの知識・技能の延長線で仕事に就くことが出来た。キャリア的には1ないし1.5のキャリアで良かったのだが今後はそうはいかない。 (1)働く期間が長くなるので、どうしても知識・技能の陳腐化がおこる。(2)産業構造の変化、イノベーション、M&Aなどの影響で2回以上リストラに会う可能性が高い、などの理由により第2、第3のキャリアを持つ必要が強くなる。

  4. 解決策は個別労働契約の考え方で一人一人の状況に応じて決めざるを得ないが、個人の側は、専門性の高いプロ人材でなければ「対等の立場で交渉」とはなりにくい。定年までに交渉できる人材に育つ必要があるが、そういうキャリア観はまだ定着していない。一方会社の方は、集団的雇用契約に慣れていて、従業員一人一人の状況に応じて個別の労働契約を結ぶ準備が出来ていない。

長寿化はキャリアについてのいろいろな問題を引き起こすと考えられる。それらの問題にどう対応すべきかコーヒーブレークの新しいシリーズで考えてみたい。

 

つづく

 

 
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