業績と報酬の結び付けを強くしすぎると、不正な方法で報酬を増やそうとする動きが誘発される。インセンティブ(賞与など、業績に連動する報償給)を増やすために受注金額や利益額を操作することは、良く知られた現象だ。架空の受注を入れ次の期にキャンセルする、というような単純なものから、サービス収入の過大表示、納期変更や機種構成の変更など手の込んだものまでいろいろあるが、不正の発見や予防には、当該ビジネスのプロセスを良く理解した上で、報償給制度を設計する必要がある。
現地法人を設立する場合、処遇制度の設計をコンサルタントや新たに採用した人事課長に丸投げしてしまうのは、日本企業によくみられるケースだが、それらの人々がインセンティブの設計に十分な知識があるとは限らないので、注意が必要だ。アメリカのパソコンの会社の社長に就任した時、賞与の算式を見て驚いたことをおぼえている。ごく一般的な算式なのだが、製品の種類が多く、販売チャネルも多数である場合には、不正が簡単に成立しやすいタイプ(半導体ビジネスの経験者であれば、直ぐに気が付く弱点がある)のものであったからだ。すでに営業部門の数人に利用されていたのは、言うまでもない。
業績へのこだわりは、個人的な利益追求よりはもっと大きな不正をうむ可能性を持っている。経営判断の失敗を糊塗して利益を計上したり、ガバナンスを問われることを避けるために、子会社の不正会計を発見しても握りつぶしてしまい、密かに処理したりするケースなどがそれにあたる。東芝や富士フィルムのケースである。