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コーヒーブレーク(43)

 
LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後III Ltip 対 強欲資本主義

航空会社の乗客無視は、利益追求主義が原因

  座席のダブルブッキングを理由に乗客を飛行機から引きずり降ろすという事件があって世間の注目を集めたが、その原因は Wall Street にあるという記事が5月30日のNew York Times にあった。市場が業績向上を強く求めるため、経営者の賞与を短期の利益などの指標と結びつける傾向が強くなった結果だという。昔から売上や利益や株価などは経営幹部を評価するさい使われてきたが、利益をほとんど唯一の評価基準にしてしまうような現象は、最近の特徴である。

記事によれば5年前のアメリカン・エアラインでは、経営幹部の賞与の評価要素には、オンタイム到着率や荷物に関するクレームなど消費者の満足度に関するものが含まれていたが、現在では税引き前利益とコスト削減だけになっている。ユナイッテッド・エアラインでも信頼性や消費者の満足度に関するものの評価要素に占める割合はすくなくなっているとのこと。

 

不適切会計の続出

  業績と報酬の結び付けを強くしすぎると、不正な方法で報酬を増やそうとする動きが誘発される。インセンティブ(賞与など、業績に連動する報償給)を増やすために受注金額や利益額を操作することは、良く知られた現象だ。架空の受注を入れ次の期にキャンセルする、というような単純なものから、サービス収入の過大表示、納期変更や機種構成の変更など手の込んだものまでいろいろあるが、不正の発見や予防には、当該ビジネスのプロセスを良く理解した上で、報償給制度を設計する必要がある。

現地法人を設立する場合、処遇制度の設計をコンサルタントや新たに採用した人事課長に丸投げしてしまうのは、日本企業によくみられるケースだが、それらの人々がインセンティブの設計に十分な知識があるとは限らないので、注意が必要だ。アメリカのパソコンの会社の社長に就任した時、賞与の算式を見て驚いたことをおぼえている。ごく一般的な算式なのだが、製品の種類が多く、販売チャネルも多数である場合には、不正が簡単に成立しやすいタイプ(半導体ビジネスの経験者であれば、直ぐに気が付く弱点がある)のものであったからだ。すでに営業部門の数人に利用されていたのは、言うまでもない。

  業績へのこだわりは、個人的な利益追求よりはもっと大きな不正をうむ可能性を持っている。経営判断の失敗を糊塗して利益を計上したり、ガバナンスを問われることを避けるために、子会社の不正会計を発見しても握りつぶしてしまい、密かに処理したりするケースなどがそれにあたる。東芝や富士フィルムのケースである。

 

Ltip の役割

  Long term incentive plan の役割は、ストック・オプションの代替から始まって、自社株買いによるお手盛り防止策、インセンティブの不正対策と進化してきたが、使い方によって強欲資本主義に対するブレーキになりうる。どう考えても東芝の不正会計の原因をつくったウエスティング・ハウスの会長が退任前の一年間の報酬として約21億円を受け取っていた(エコノミスト6月20日号の記事)のは、報酬決定の仕組みに問題があったと思わざるを得ない。

本給を控えめにし、インセンティブの大部分をLtip とし、その計算式が、例えば8年間の一株当たり利益率の増加といった目標と連動していれば、こんなことは起こりえないからだ。( ストック・オプションは倒産すれば価値がなくなるので、この際、あっても効果は失われる )

 

強欲資本主義への対抗策

  Ltip 導入の目的は、短期的な業績追求ではなく、より長期な視点での業績向上を経営者に動機付けようとするものだ。強欲資本主義が生まれる原因は、株主だけをステークホルダーとする株主資本主義という声もあるが、同じ株主資本主義でも、株価上昇によってキャピタル・ゲインを得ようとする株主ばかりではなく、年金ファンドなど預金金利以上の配当を安定的に受け取ることを期待する株主もいるはずである。こういう株主の期待にこたえる、よりサステナビリティを重視した経営もありうる。

  短期売買目的ではなく配当を受け取ることを目的に、株を長期に保有する株主を優遇する方策もいろいろ工夫され始めているが、Ltip は、不正防止策だけでなくサステナビリティ重視型経営を支援する有効な方策でもある。強欲資本主義への対抗策としてより活用されることを期待したい。

 

以上

 

【ご参考】
ロングターム・インセンティブ・プラン(LtipあるいはLTP)について興味のある方は、ぜひ次のコラムも併せてご参照ください。なお、3Dラーニング・アソシエイツではジョブ・グレード制の導入やLtip導入のお手伝いもいたします。関心のある方は連絡先へご相談ください。

<関島の書き下ろしコラム>
■21世紀型人材マネジメント
vol.18 処遇(5)長期報償給( Long term incentive plan )
■コーヒーブレーク
・(25) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後

(37) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後II クローバック条項

<弊社パートナーのコズロフスキーが執筆「Reports from New York」>
vol.11 Long-Term Incentives or LTI’s
vol.24 LTIPs and “Clawbacks”


 
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