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3Dラーニング・アソシエイツ

コーヒーブレーク(54)

 
Wharton RAG 報告 2018
2018年6月5日に行われた、リサーチ・アドバイザリー・グループの報告の中で、最も興味深かった講演を紹介します。

1.HRMの動向(Cigna 上級副社長 John Murabito)

注)Cigna はフィラデルフィアに本社を置く保険会社 従業員40、000人

  過去10年間で多くの企業がM&Aにかかわった。(特に健康保険会社で顕著)そのためHRMの目標は以下がトレンドになった。

  1. 優秀な従業員の退職防止
  2. 合併前の双方の顧客の維持
  3. 合併で大きくなった組織のコントロール
  4. CEOを含むSenior management の保持
  5. 第一線ライン・マネジャーの育成
  6. 従業員に対する投資(例 就業時間内の副業の許可 with pay )を増やす
  7. 評価は9box 型

共通する問題点は、経営幹部層の育成(manager to director)に苦労していること。

 

2.The NLRB の動き(前委員長 Philip Miscimarra)

[関島コメント:RAGの仲間の一人。昨年委員から中労委のChairmanに昇格。組合に厳しい判定で知られていたので共和党系とみられていたが、鉄鋼労組などの支持を欲しがるトランプ大統領によって1年で解任されてしまった。残念]

  1. NLRB の委員の構成 昨年の空席二つは埋められたが 民主党系4 共和党系2で相変わらず組合有利。(例:ボーイングが工場で安全管理のため設置した監視カメラが違法とされたケース等)
  2. 職場を取り巻く状況の変化に対応するためのリーダーシップは誰がとるのかという大きな問題あり。判例でやるならNLRB、法律改正なら国会だがどちらも手を出していない。そのため、地労委の判断は比較的早く出るが、中労委の判断は遅れがち、判断根拠もクリアーではない(状況的で規範的ではない)。

 

3.HR goes Agile(Peter Cappelli Director, Wharton Center for HR)

  昨年のRAG(コーヒーブレークvol.44)で触れた変化がHR全体に波及している。例えば、HRのpolicy にagile をあげているかという質問に、ほとんどの企業がyes と答える。Agile とは、プロジェクトやビジネスを実行するプロセスが俊敏なことで、自律性の高いチームがオープンな形式で意思決定をおこなったり、プロトタイプを創り実験、結果が良ければ直ちに全体に適用したりするのが特徴。

  従来の方法は、全社の中期計画(5年)に対応する事業部中計を作り、それを実行するプロジェクトを定め、プロジェクトごとのゴール、予算、日程を決めるというように上から下に細部の決定をおろしていくのが普通なためWaterfall Modelと呼ばれるが、これでは時間と手間がかかり過ぎ、変化の速度に対応できないという反省に基づいている。この考え方がHRMに与えている影響は以下。

  1. 評価;「timelyにおこなう」を原則とする。年一回定期ではなく必要に応じ昇給、昇格を実行。スポットボーナスもあり。上司がコーチングするのではなくon siteで同僚がコーチングも(peer to peer)。評価のfeedback も直ちに。
  2. 上記を実行するため処遇に関する決定権をチームのリーダーに権限移譲(人員予算の決定県も含む)
  3. 組織変更も随時。
  4. HRは、会社の運営をAgileに保つのが仕事。(個人よりはクロスファンクショナルチームに焦点を当てて運営するなど)
 

4.退職時の引き抜き防止契約と競争制限(Joseph Costello Morgan Lewis )

  退職時の契約としてNon-Compete, Non-Solicitation and No-Poaching Agreements (一定期間従業員の勧誘や引きぬきをおこなわないことを約す条項)を結ぶことは、マクドナルドのようなフランチャイズ店の場合、一般化している。

しかしこの条項が、独禁法がさだめる競争制限に当たるかどうかが問われ始めているという問題。そもそも企業の機密とは何か(範囲や種類)というNon-disclosure Agreement に関する問題でもあり、HR担当者の関心を集めている。労働市場の流動性が高まれば日本でも起こりえる問題なので、今後もフォローが必要。

 

以上

 
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