通常、アウトソーシングは、処理的な業務を外部に委託することによりコストを低減するというところから始まる。より高度なのは、外部に委託することにより生まれた時間や人材を、より必要度の高い業務に振り向けるという使い方である。問題は、委託した業務に関する能力が、時の経過とともに次第に失われることだ。始めのうちは自分でも出来るので、納入された仕事の良し悪しを判定することができる。
しかし自分ではその仕事をしないので、専門家も減り、少し技術が変化したりすると仕事の良し悪しが分からなくなってくる。それ故、仕事を評価するため目利き能力の維持に留意しなければならない。人に委託するにしても、試作センターで少量は生産するといった工夫が必要となる。しかし相手が、こちらの目利き能力の不足に付け込んでコストの高いものや品質の悪いものを押し付けるというような恐れが無い場合はその必要は軽減される。
サプライチェーンの事例で見たように、契約で品質を確保する方法よりすぐれた方法は、業務を委託する側と受託する側の双方にメリットがあるようにすることである。ポイントは、相手の選び方にある。給与関係の場合であれば、「イギリスでは、このようなインセンティブ・プランが普通です」といったアドバイスも可能な専門業者が望ましい。受託側からすれば、単に給与計算を引き受けるだけでなくコンサルテーションといったより高級な仕事が出来る会社に成長したい。そのためには他社にも応用できるような優れた給与制度を持つ会社と取引したい。双方とも将来のビジネスを考慮に入れて、仕事の上でパートナーとないうる相手を戦略的に選ぶ必要がある。
自分ができないことを委託する場合は、仕様を確定することが難しい。部品の場合でも、「こういう製品を造りたいのだが、そのためにこういう機能を果たす部品を作れないか、費用はこの範囲までと考えているのだが」という相談の仕方になる。人事部門の場合でも同様で、「世界中でほぼ共通のジョブ・グレード制を導入したい。グレード数やレンジレートの幅を地域別にかえてもよいが、評価要素のうちこれだけは企業文化の維持に不可欠なのではずしたくない。4パターンぐらいに収まるとうれしい。」といった形になる。
この場合は、依頼する業務の仕様を、双方で相談の上作成することから仕事が始まる。この場合のポイントは、依頼する業務を適切に選ぶことができるかどうかである。なぜそのプロジェクトを他の専門家の力を借りてまでして実行したいかを十分考えないと時間と費用が無駄になる。最近目に付くのは、たとえばグローバル人材の育成プログラムを提案してほしいなどといった形で複数のコンサルタントや教育会社に依頼し、人事部門の仕事はその中から選ぶだけといった仕事の仕方である。
テーマが流行やトップの意見により選ばれることが多いので、担当者は十分ニーズを把握できていない。そのため頼みたいことの細部を上手く説明できないので、仕様が固まらない。提案側もそれらしいものをみつくろって並べるだけになってしまう。これでは効果的なアウトソーシングにはならない。
自分で出来ることを依頼する場合でも自分が出来ないことを依頼するでも、必要なのは長期的な目標を定め、そこにいたる道筋をいろいろ検討するといった戦略的な思考である。資材部門がサプライヤーを選ぶ際、値段と品質だけで決めることはしない。会社の特徴その他を必ず勘案する。人事部門も同様な視点が必要である。
例えば、いずれ世界中でマネジャークラスの採用をおこなうと予想される場合、ヘッドハンターはグローバルなネットワークを持つところと特定地域に強いところの両方と関係を強める必要がある。エンジニアの採用に強いところ、経理部門の採用を得意とするところといった色分けも把握しなければ、採用の為のよいサプライチェーンは構築できない。あるポストのマネージャーを採用するという発想ではなく、広く、長く考えなければならない。
これまでの仕事の仕方から考えると、日本企業は人材マネジメントの多様性を認める方を選択する可能性が高い。その場合、人材マネジメント上これだけは守って欲しいというコア部分と地域性を認める部分とを区分する作業が発生する。一方、大きな絵から順番に考えるのが普通である人々にたいしては、事後的であれ改めて会社のビジョンを作成し、それと人材マネジメントとの関係を説明しなければならない。四つのTとの全面戦争は避けられそうもないのである。となれば、人の力を活用せざるをえない。人事部門にとって今後必要な機能は、アウトソーシングという技術を戦略的に活用する能力である。