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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.22  人材開発(1)人材開発のためのビジョン

雇われる能力 Employabilityが大切

 一人親方が好む生態系を創るのに必要な部品の山として、「人材の特定」と、「処遇」という山を検討してきたが、次に、人材をひきつけ、引き止める施策の一方の雄、「人材開発」について考えてみよう。

ビジネスモデルで戦う世界では、ビジネスモデルの変更は常に起こる現象で、このとき、内部リソースの再配分、組みなおしを迅速に行うことが求められる。それができなければビジネスモデルを支援するHRMとはいえない。こういう状況下で企業はどのような人材開発に関するビジョンを持つべきなのであろうか。

HRMのステイクホルダーの一員である従業員の立場から言えば、ある日突然、「ビジネスモデルを変更するので、あなたは必要なくなった」と通告されるのでは、安心して仕事に打ち込めない。しかし、会社が永続的な雇用を保証できないことも事実である。
一方で労働市場の流動性が高い世界では、従業員がある日突然、「ほかに良い仕事が見つかったので」と会社に通告して退職してしまうケースも普通におこる。
雇用関係を、「雇う人と雇われる人の間の契約」という概念でとらえれば、「ある日突然」は、アンフェアとはいえない。双方に契約解除の可能性がある。ただし、契約は両者が対等な立場で結ぶものであるが、個人と会社では、通常の場合、会社の方が強いので、より責任を負うべきである。日本のように、正規従業員は長期勤続を前提に契約が成立している場合は、特にそうだと考えられる。

それゆえ、「会社は、従業員に対し、(永続的な雇用を保証しない代償として)他社でも通用する高い技術や能力を身につけられるだけの教育・訓練の機会を提供する責任がある」という考え方をベースに人材開発に関するビジョンを構成するのが良いと考える。提供された機会を活用するかどうかは、それぞれの従業員が、それぞれのキャリア観に基づき決めればよい。

 

人材のポートフォリオを組む必要がある

 組織内一人親方にとって重要なのは、自分の能力を高めることができる仕事である。しかし、将来役に立つと思われることを勉強できるプログラムがたくさん用意されていて、仕事の合間に利用できる環境も大切である。会社からすれば、従業員のキャリア追及を支援することと、上記の雇われる能力の支援は、矛盾しない。人材をひきつけ、引き止めるツールとして、仕事に劣らず有用と考えられる。だが、「利用したい人はどうぞ」というプログラムの提供の仕方で、本当に良いのであろうか。

実は人材開発のために必要なビジョンにもう一つ織り込むべきことがある。それは、「人材のポートフォリオ」という考え方である。ポートフォリオを組むとは、そもそもは、リスク回避のために資産に占める金融商品などの構成を検討することだが、この考え方は従業員の構成を考えるときに応用された。作業量の変動に対応できるよう常用労働者と非常用労働者(短期の労働者やパートタイマー、アルバイトなど)の比率をどうするか、という時「人材のポートフォリオ」という言葉が使われた。

しかし、私が使う「人材ポートフォリオ」とは、「現在必要な人材と将来必要な人材の比率をどのようにするか、という視点から人材の育成を考えることにより、将来発生する必要な人材と、現在保有する人材との不一致というリスク対策としよう」という主張である。理由は、ビジネスモデルで闘う世界では、ビジネスモデルの変更は常だが、将来必要な人材はどういう人か現在は分からないが、分からないということで対策を放棄してしまっては、リソース配分の俊敏性を争う世界では、競争に負けてしまう。どうしてもこの点についての考え方を整理しておく必要がある。

 

勉強したいと手を上げる人を応援する

 将来必要な人材は、現在は分からない。分かった時点で迅速に採用できる能力をつければよく、人材ポートフォリオは必要がないというのも一つの考え方である。しかしそういうことが可能なのは、ブランド力のある優良企業に限られるが、問題は必要な人材に大きな変化がおこったということは、優良企業と目される企業も変わるということで、いつまでも優良企業にとどまれる保障はない。そういう事態が起これば必要な人材に対する需要は高まっているので、多額の採用コストがかかるだけでなく、採用は迅速にはできない可能性が高い。それゆえ、何らかの形で人材ポートフォリオを考えた企業には勝ちにくいと考えられる。

 私の提案は、勉強したいと手を上げる人を応援するのが良いというものだ。人が勉強したい理由はいろいろで、勉強したい人すべてが将来役に立つ人だとは限らない。しかし、役に立つ人がいる可能性が高いと考える。なぜなら、人が成長するのに必要な三要素のうち最も大切なものが自分で成長したいという意欲である。保険をかけるなら成長する可能性が高い人にかけるほうが合理的である。「教育プログラムを利用したい人はどうぞ」という姿勢の背景には、人材のポートフォリオというより戦略的な理由が存在する。

 

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