海外の現地法人が増加するに従い、製造部門、管理部門からから海外に出かける人が増えてくる。この人たちがやがて海外でぶつかる問題は中小企業問題である。そのため、基礎編に加え、職能分野別に対応プログラムが必要になってくる。人事勤労分野でいえばたとえば、就業規則や賃金規則を作る能力の付与である。現地で採用した人材がそれらを作成するとしても丸投げにしないためには、自分で作る能力を持つ必要がある。しかし、就業規則や賃金規則はすでに自社では存在するので、作った経験はないのが普通である。
従って、改めて就業規則を作成せよという課題を与えると多くの場合戸惑うことになる。賃金に対する苦情処理や処遇制度の整備のためには職務分析能力も必要になるが、これも一部の人を除いて経験が乏しい。経理担当者が貸借対照表を自分で作ったことがないとか、原価計算はしたことがないとか、それぞれの専門職能ごとに上記に類する問題があり、これらを改めて海外要員とその候補生に教える必要がある。
この時期にいたれば、やがて海外事業がフェーズ2(後期)、フェーズ3と進む可能性が明らかになってくる。それゆえ、将来に備えて海外要員の層を厚くする施策がとられなければならない。海外業務研修生といった形でトレーニーとして海外に派遣したり、海外留学生を増やしたりするのがそれである。問題はコストがかかるので、どうしても人数が少なめになってしまうことだ。しかし、たらいの水を赤くしようとすれば、バケツで赤インクを入れる必要がある。スポイトで赤インクをポタポタたらしても効果は薄い。思い切ってトレーニーの数を増やす必要がある。広報、法務、人事勤労、経理、資材、知的財産、営業、マーケティング、研究開発、設計、生産技術、製造、検査、ロジスティクなど職能分野別に海外で仕事ができる人の層を計画的に厚くしていく努力が欠かせない。
数を増やさなければいけない理由の一つに、教育効果の問題がある。トレーニーとして海外に出したり、MBAをとらせたりしても、成長するのはその1/3程度で、歩留まりはあまり高くないのが実際のところである。100人だしても、ものになるのは30〜40人だ。異なる環境に適応するのが上手な人とそうでない人があるだけでなく、適応の仕方にも差があるからである。
例えば、米国流の仕事の仕方を学んだとしても、それが成立する条件についての理解が十分でないと、応用がうまくできない。米国流でないものはすべて間違っているとか、遅れていると判断するようになっては、帰国後問題を引き起こす。理論と実践の両方を経験して、初めて実際の場面で活用できるので、MBAをとれば直ちに経営ができるというものではないのは当然である。