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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.53  グローバルな競争と人材開発(17)グローバル経営幹部研修

Attract and Retain 効果

  グローバル人材開発プログラムの最上級が「グローバル経営幹部研修」である。グローバルに将来の経営幹部候補を集め、企業の経営理念を引き継いで事業を成功に導くことができるリーダーシップや倫理感の持ち主かどうかをチェックすると同時に、経営に関する最先端の理論や情報を付与するプログラムである。研修環境、講師陣などこの目的にかなうものにしようとすると当然のことながら、高額の費用がかかるプログラムになる。

  このタイプの研修は、過去にいくつかの先進的日本企業で導入試みられたが、あまり成功していない。理由は、対象となる外国人経営幹部候補生の数が少ないため、3回、4回と継続して実行することができず、グローバル人材開発のパイプラインとして定着できないことにある。経営を取り巻く環境の変化の速度が速く、内部の人材を育てるより外部の適材を獲得する方が先、という事情もある。

  ハーバードやコロンビアのシニア・エクゼクティブ・プログラムは、経営幹部の登竜門として一定の権威があり、そこに派遣されることだけで動機付け機能が働き、未来のCEO、COOとして一層の努力を参加者に促すが、GEやIBMなどの社内経営幹部研修も、最上級のプログラムは同様な効果を発揮する。

人材開発プログラムの最上級である以上、プログラムの存在自身が優秀な外部の人材をひきつけたり(attract)、内部人材を引きとめたり(retain)する効果がなければ、本物とはいえない。どの教育プログラムもトップの理解と支援が必要だが、このプログラムは後継者育成についてトップの強い意志がとりわけ必要で、それが希薄な場合、成果は期待できないことを事務局サイドは覚悟すべきである。

 

参加者をどのように選ぶか

  難しいのは参加者の選び方である。全世界同一のジョブ・グレード制が整備され、将来の幹部候補が直ぐに把握できる場合は別にして、通常は、対象者を選び出すのに苦労するはずである。なぜなら海外事業の責任者には、育成目的で若手が派遣されたり、地域事情に詳しいベテランがあてられたりしていて、現地法人のトップあるいはナンバー2であっても、将来のCEO、COO候補とはいえないケースもままあるからだ。そのため通常のしかたで募集をすると、参加者のレベルにばらつきの多いクラスができあがってしまう。

  事業規模からすると、日本国内の工場の一部門程度の海外独立法人のトップと事業部門の責任者を同じテーマで議論させるというのはどう考えても無理がある。そこで、たとえば日本の部長クラスにレベルを揃えるという対策をとると、今度は海外の優秀タレントが日本からの参加者のレベルに落胆して、研修終了後会社の将来を見切って退職するという事態が発生する。Attract & retain にならない結果である。

  同様な結果を社内講師がもたらすケースにも要注意だ。国内担当役員の講話などが海外からの参加者をおおいに失望させてしまうケース、計画段階に過ぎない構想を近い将来具体的に実行されるプランと誤解させてしまうケースなどは、よくみられる失敗事例である。
 

初めに収支責任ありき

  参加者の選び方についての一つの解決方法は、ポストではなく収支責任の大きさが一定の範囲内におさまるよう配慮するというものになる。形式的に収支責任をもつ事業部長ではなく、その事業部の収支を実質的に左右する仕事を担当している部長を選ぶという方法である。海外からの参加者は、入社したてで定着してくれるかどうか心配なので「入社3年以上」といった制限を設けるのではなく、「このプログラムでがっちり味方につけてしまう」といった意気込みで選ぶことが大切である。管理部門については、収支責任の大きい事業を支援している部署からえらぶことになる。この場合日本の本社も地域本社の一つといった見方になる。

 
 

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