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21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.95  企業文化(1)21C型HRMで企業文化が重要な位置を占める理由

環境変化に対応しなければ生き残れない

  このコラム21C型人材マネジメントでは、いろいろなところで企業文化について触れてきた。特に、戦略の実行手段としての人材の選び方や組織の作り方に影響するだけでなく、競争の勝ち方などにも強く関係すると解説してきた。しかし、それらは、HRMを構成する部品の説明の一部、あるいは組織論や戦略論に関する解説の一部分であり、企業文化そのものについて論じたものではなかった。そのため、いちばん基本となる、なぜ企業文化が21C型HRMで重要な位置を占めるかが論じられていない。
そこで、コラム21C型人材マネジメントの最後のシリーズとして、HRMと企業文化の関係についていろいろ考えてみたい。

  HRMにとって企業文化についての取組が重要な理由は、それが企業の持続性サステナビリティにとってカギとなる働きをするからである。21Cは、ビジネス環境が不安定でマネジメントも複雑化するので、不確実性が高い時代である。(不確実性の度合いを測る方法については、拙著「キャリア戦略」の4章1「戦略目標を設定する」で詳しく解説しているので参照こう。)

そのため企業に求められる能力は、環境変化に素早く対応する能力である。「強い者が生き残るのではない、環境変化に適応できた者が生き残るのだ」とは進化論の説くところだが、それはビジネスでも当てはまる。
この環境適応能力を左右するのが企業文化なのである。企業文化が環境条件に合わなくなった時、変えられたところは生き残れるし、そうでないところは生き残れない。
 

企業文化は抵抗勢力でもある

  新しく事業を立ち上げる場合は別にして、多くの場合、企業文化は変数というよりは所与の条件である。企業文化は組織学習の結果という側面を持つからだ。組織がこれまでの事業経験を通して学んだことが積み重なって企業文化となっている。だから気軽に「ご破算で願いましては」とはできない。特に、現在持っているリソースからビジネスモデルを決め、それに従う戦略を採用する傾向が強い日本企業にとって、企業文化は、所与の条件である。従ってこれを変えようとすると大きなエネルギーが必要になる。

  企業文化が変わりにくい理由は、ビジネスモデルで闘うという21Cの競争の仕方によるところも多い。企業文化は、お客さんの要求や好みに合わせようと努力した結果であるので、ビジネスモデルを変更するとき以外に変更する理由は乏しい。また、ビジネスモデルで闘う場合、有力な勝ち方の一つに「資源の効率的な組み合わせで勝つ」という方策がある。自分が得意なところに注力し、不得意なところは他の人に依頼するというものだが、これは自己の得意、不得意に関する認識がベースになっている。
組織が持っている自己認識は企業文化と強い関係があるが、自分を変えることは簡単ではなく、それも企業文化が変わりにくい理由に繋がっている。
要は、企業文化は、「変える」ということに対しては強力な抵抗勢力なのである。

  コラムvol.88リーダーシップ開発(9)vol.89(10)で触れたように、リーダーシップの目標が「効率を上げる」から「競争に勝つ」ために変わったことにより、変革型リーダーシップ理論が生まれ、変革のための8段階や変革の不等式という理論が生まれた。いずれも環境変化に対応して事業構造を変えようとするときのプロセスを定式化しようとしたものであり、企業文化の変更が、かなりな努力が必要なことを示す証拠である。(変革の8段階、変革の不等式については今後のコラムvol.97で議論する予定)

 

企業文化とは何か

  このように変わりにくい性質を持つ企業文化とは、そもそもどういうものなのだろうか。「組織学習の結果という側面を持つ」と書いたが、それは出来方であって間接的な説明にすぎない。問題は何を学習したか、である。

学習の第一は、このくらいの速さで行動しなければならない、このくらいの時間で製品は製造できなければ、あるいは販売できなければ事業として成立できない、などなど時間に関する基準である。時間軸と表現できる基準である。

第二は、量や質に関する基準で、製品の大きさや精密度、色や形など、対象とするお客や提供する価値に関係するものである。顧客軸基準である。

第三は、最も重要な学習だが、上記の二つの上に成功、失敗の経験から学んだことを統合した結果「この程度のことは、たとえ難しくても、出来る」という効力感、自信といったものである。効力軸と呼ぶことにしよう。

これらの基準によって、どういう人が従業員として好ましいか、どういう製品が当社らしいと感じられるか、などが決まってくる。組織論の所で述べたが、組織によって効率が良い、便利であるなどの感じ方が異なることを説明したが、それは組織ごとに経験から学習して作り上げた上記の基準が異なるからである。

  次回はこれらの基準を手掛かりに、企業文化についてもう少し考えてみたい。

 

 

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