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3Dラーニング・アソシエイツ

21世紀型人材マネジメント
 -組織内一人親方に好ましい生態系の創り方-

 
VOL.115  組織―再論― (3)自由と統制というトレード・オフ
 
 

自由に活動してよいという範囲をどう定めるか

  組織は、分権化と集権化の間をスイングするように、軟らかい組織と固い組織の間も、往ったり来たりする。同様に、「組織が自由に活動してよいという範囲」を拡大する場合(自由)と縮小する場合(統制)の間もスイングする。

  21C型HRMの特徴は、「時に相反することのある二つの価値の同時追及」なので、組織もその例に漏れないといえば、その通りなのだが、組織は、作った方が便利なのでつくられるという原則ゆえ、単に「状況に応じてスイングする」のではなく、組織をつくった目的との整合性でスイングの程度が影響を受ける。

  自律性の高い小規模なチームをたくさん作る理由は、変化への適応を早めるためである。ムダな統制を排除し効率を高めるのもチームをつくる目的の一つだが、最大の目的は、出来るだけ早く変化に適応する方法を見つけることであり、そのために、いろいろな試みを効率良く実行することにある。

  例えば、石炭火力発電の効率を高め、一定の電力を得るのに必要な石炭の量を削減し炭素排出量を削減できたとしても、地球温暖化の防止という目的の達成には、石炭火力設備を、再生可能エネルギーを使用する発電設備に置き換えるという施策の方が、適している。よって、太陽光や風力、温度差利用など、再生可能エネルギーを活用する小規模な発電プラントをたくさん作ってどれが良いかを調べるのが、変化に対する正しい対応策になる。

 

ビジョンによるコントロール

  自律的に活動するのが仕事の基本である軟らかい組織には、規則によるような直接的コントロールはなじまない。よって、間接的なコントロールにならざるを得ないが、もっとも基本となる方法は、ビジョンによる制御である。

  ビジョンとは、最終的に目指すものという意味で、戦略目標の最上位に位置する。戦略目標には階層があり、最上位の目標が下位の目標をコントロールするが、それについてはコラムvol.76「HRMの戦略目標再論」で詳しく説明した。だが、ビジョンが「スイングの幅をコントロールする」という視点から見て、上手に設定されているとは限らない。なぜならビジョンは夢を語るものであるからだ。では、夢を語ると同時に自律性をもコントロールできる良いビジョンとは、どういうものなのだろうか。

  良いビジョンの第一の条件は、「進むべき方向を示す」であろう。森の中で道に迷い、どちらに行ったよいか分からなくなった時、「こちらだよ」と教えてくれるものでなければならない。その意味で、木に登れば見える「遠くの丘の上の旗」が良い。

  第二の条件は、「どういう道筋を選んだらよいかを発見するヒントが示されている」であろう。最上位の下に位置する目標を設定するヒントが与えられていれば、考えやすい。「我々が活動するのはこの範囲」という宣言や、「こういうやり方が好き」という意見の表明も、良いヒントになる。要は、皆の道しるべ、となるビジョンが良いビジョンなのだ。

 

企業文化によるコントロール

  ビジョンによるコントロールだけでは、あまりに間接的過ぎると思われるかもしれない。だがやりたいことは、企業の持つ文化に根差す場合が多い。自分が持っているリソース(技術や知識)から考えて、「こういうことなら出来そうだし、チャレンジに値する」というものから、やりたいことは選ばれるからだ。夢にチャレンジする以上、リソースには今は持っていないが将来獲得するものも含まれるのは、言うまでもない。

  企業文化は過去の成功や失敗の経験を通して学習したことが蓄積されて、いろいろなことの好き嫌いに反映する。よってかなり強力な道しるべ、になりうる。こういうやり方は嫌いだ、と明言されればそちらの方向には進まないからだ。ビジョンと暗黙知の文化が一緒になって、自律的に活動できる範囲をコントロールすると考えてよい。

  しかし、時に文化は、変化に対する強力な抵抗勢力にもなる。これを防ぐためには、異質な考え方がお互いに刺激し合うことにより成功につながった経験の伝承や逸話化が大切で、ビジョンにも自由な討議が出来る環境の維持について言及しているとよい。

 

目標の共有化によるコントロール

  ビジョンという大きな絵を実現するために中位の目標は設定される。組織を作る理由から考えると中間目標は分かり易い。組織の分担する役割がそれに相当するからで、やり方もビジョンが示す好き嫌いにしたがえばよい。問題は、役割が求める機能、製造や営業や経理といった役割の理解の仕方である。組織は分業の結果である。分ければ固まる、の原則どおり全体の方向に関係なく、部分最適を目指してしまいがち、という弱点も持つ。これを防ぐ方策が、「目標の共有化」である。次回はこの問題について考えてみたい。

 

 

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