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3Dラーニング・アソシエイツ

コーヒーブレーク(21)

 
ダイバーシティ活動の問題点6
日本の仕掛けに対する理解の不足が、足を引っ張っている

何故昇進してもらわないと困るのか

  人材マネジメント制度は、経験とともに能力が向上するという前提で作られている。したがって適当な時期に昇進してもらわないと困る。これは、ある程度世界標準なのだが、日本の場合、労働市場の流動性が低いという特徴により、一層色濃く賃金や昇格制度に組み込まれている。昔から主たる労働市場(補助的な業務でないという意味)に参加している男性は、経験的にこのことを理解しているが、比較的新しい参加者である女性には十分理解されていない。そのため仕事が人を育てるという仕掛けが利用されにくい。

  

賃金カーブが右上がりなのには理由がある

  賃金カーブは業界や会社の規模、業績によって異なるが、おおむね50歳前後までは右上がりになっている。理由は勤続年数とともに能力も向上するのが普通と考えるためだ。習熟曲線の考え方である。

  習熟曲線とは、累積生産量が増えると生産コストが低下することを示す曲線で半導体産業の場合が有名だが、おおむねどの製品にも同様な傾向がみられ、経験が二倍になるとコストと価格は15〜25%低下するといわれる。この原理を一番先に見つけたのは日本の製造業で、それが日本の強みと気が付いて企業戦略に結び付けたのがボストン・コンサルティング・グループBCGである。

賃金カーブそのものは、生活費の上昇に合わせて設計されたという歴史も持つが、基本は経験とともに能力が向上するという事実に着目したもので、右あがりは世界共通である。(ジョブ・グレード制であっても、個人の賃金の軌跡を追ってみるとやはり右あがりが実態)従って、給与も責任ある地位に就くと上がるように造られている。

そのため、適当な時期に責任ある地位に就くよう期待されていて、「あんなにがんばらなくてはいけないのなら、偉くならなくていい」では、「想定と異なり、困る」のである。困る理由は、後から来る人の進路の妨げになるからだ。

 

一括新卒採用が昇進圧力の原因

  もう一つ勤続とともに成長することを促すものに、毎年新規学校卒業者が一括採用されて入社してくるという日本の慣行がある。近年中途採用が増えてきてはいるが、各企業が一斉に採用活動に入り内定を出すというのが相変わらず主流である。これが昇進圧力の原因となる。

  欧米型のジョブ・グレード制の場合は、「こういったことができる」という条件を満たせば昇進できる仕掛けなので、原則的に、Up or Outである。一定の時期までにマネジャーの仕事が出来るようにならなければ(UP)、やめてください(OUT)ということになる。ポストを内部からの昇進で埋めることが出来なければ外部から採用ということになる。内部の人を昇進させるのが良いか、外部から採用するのが良いか、比較検討の上決定されると表現してもよい。

  一方日本の場合は、そういう昇格の仕方ではなく、早い、遅い、の差はあるにしても一定の勤続年数になれば、経験により能力が高まったと見なして昇進させる。主任の一人が課長に昇進することにより、主任のポストが一つ空き、担当者の一人を主任に昇格でき、さらに成長度合いにあわせ担当者の仕事を再配分することが可能になる。

このように、一人を昇進させることで多数の人を元気づけることができる。従って、いつまでも昇進しない人がいると人事に停滞感がうまれる。無論そういう人を放置して若い人を課長にすることはできるし、そういうケースも増えてきているが、「出来ればそういうことはしたくない」が組織の本音である。
 

キャリアとポストの関係

  当然のことながら「昇進だけがキャリア形成の方法ではない」という疑問が存在する。しかし、キャリアの成り立ちについて少し掘り下げて考えてみると、違った見方ができる。仕事は「マネージしなければいけないものは何か」によって難しさのレベルが異なってくる。初級は「自分」、課長レベルになると「自分と他人」、部長、本部長クラスになれば「自分と他人とビジネス(広義)」、役員や社長ともなれば「自分と他人とビジネスと変化」。専門職を選んでも、かかわり方が間接的になるだけで同様である。

研究者であっても最上級クラスは社会の変化や産業の変化に影響を及ぼす。要は、どのようなキャリアを選択しても、経験とともにマネージするものが変化していき、そのための能力開発が必要になる。ポストに就くことはそのよい手助けになるのだが、ポストに就かずにこの階段を登って行く場合は、より厳しい自己訓練と費用が必要になる。

  優れた人材開発の手法である「仕事が人を育てる」という方法を活用しない手はない。

つづく
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