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コーヒーブレーク(23)

 
ダイバーシティ活動の問題点8 まとめ:何のために任用率をあげるのか

遠くの丘の上の旗は何か

  これまで7回にわたり問題点を指摘してきた。問題の対応策についても、いくつか提言を試みた。だが、難しい問題の解決のためには、何よりも「遠くの丘の上の旗」をハッキリさせることが大切である。そこでこのシリーズの最後に、この問題を議論してみたい。いったい何のために女性の管理職任用率を挙げなければならないのか、である。

  世の中の議論を聴いていると社会正義の問題で、人種差別をなくすというのと同じトーンで、「男女差別をなくすのが趣旨」という論調がある一方、ダイバーシティの本来の考え方に沿って、多様性の確保が大事だから、という意見もある。どちらも正しい主張である。しかし、このような切り口では、問題は解決できない。社会問題だとすると解決に長い時間がかかる。社会は変わりにくいのだ。多様な考え方がイノベーションを生み出すことは間違いない。しかし、女性管理職の増加とイノベーションが直ぐに結びつく保証はない。どちらも問題と答えの関係がぼんやりしている。難しい問題の解決には、もっと差し迫った問題意識が必要である。

 

男だけでは数が足りない

  このテーマの本当のポイントは、グローバルな競争を勝ち抜いて、次の世代に現在の日本が持つ生活水準を引き継ぐためには、どうしても女性の力が必要だというところにある。社会問題ではなく、人材開発の問題、競争戦略の問題なのだ。

  グローバルな競争の特質は、@世界中に競争相手と部品材料(広義で企業に対する各種サービスを含む)のサプライヤーがいるということと、A量と複雑性の制御が必要という点にある。
市場が広がり、例えば商品開発一つをとっても、日本の消費者だけを対象とするのでなく、米国向け、欧州向け、中国向け、インドむけ、東南アジア向け、といった多様な地域のニーズの反映が必要であり、ビジネスを実行しようとするとそれぞれの国の法律や商習慣に対応しなければならない。ベンチのサインをいちいち見ないでも仕事のできる専門家が多数必要なのだ。それを男性だけで賄おうとするのは無理がある。女性の力を借りなければならない。

 

「教育力競争の時代」は、お話しではなく現実

  次世代に今の生活水準が引き継げるかどうかは、高い給与がもらえそうな仕事が海外に流出することや、社会的インフラストラクチャーの補修費用が大きくなっていく一方で人口の減少が続くことなどを勘案すると、すぐに対応を始めなければいけない差し迫ったテーマである。しかし、ビジネスとの距離が遠いと、グローバル化による競争条件の変化を身近に感じないため人材開発担当者は、任用率問題を競争に勝つための方策とは思わず、差別問題とか多様性の確保問題ととらえてしまい、そのような側面からのアプローチしかおこなわない。その結果が26年で6.8%である。これでは数の不足を補えず競争に勝てない。

  今から10年前に「Aクラス人材の育成戦略」という本を書いた。サブタイトルが教育力競争時代をどう乗り切るか、というものであった。グローバルな競争を意識してのものであったが、そこで改善しなければと書かれたことのほとんど(含む女性の活用)は、まだ実現していない。
しかし、グローバル化が10年前にくらべれば一層進展したことを考えると、教育力競争の時代という捉え方は、ますます現実的(リアル)なものになったと思う。次世代に今を引き継ぐためには、教育力競争に勝たねばならない。

 

戦略論的アプローチが必要

  戦略論では、戦略の位相(ディメンジョン)がテーマになる。戦略目標を軍事力だけで達成すのではなく、国民や社会や文化といったものを活用し目的の達成をやり易くするという考え方だ。位相は相互に影響し弱い部分は別なもので補うことができる。正規軍が劣勢であればゲリラ戦で、軍事力が弱ければ外交力でとか、いろいろな形がありうる。教育力競争に勝つには、このコンセプトを使う必要がある。リソースに限りがあるからだ。

  このコラムでは、仕事が人を育てるという概念、リーダーシップトレーニング、先行派の行動様式、関係性に対する投資、日本の仕掛けに対する理解、人材開発担当者の能力など、ダイバーシティ問題のいろいろな位相を取り上げてきた。女性の管理職任用率の向上という問題が、複雑な問題であるためだが、全ての位相で合格点をとらなければ問題が解決しないというわけではない。例えば、女性に対するリーダーシップ訓練を強化すれば、関係性投資が不足がちという弱点は補うことができる。仕事が人を育てるという方法を強化すれば、人材開発担当者が能力不足でもなんとかなる。

  次世代に現在の日本の生活水準を引き継ぐという差し迫った問題を解決するため手段の一つが女性任用率の向上である。そのためには、統合的に問題をとらえ、どこをまず対策するか、次にどの位相に手を打つかなど、対策の優先順位を決めて取り組まなければならない。難しい問題の解決には戦略的アプローチが必要なのだ。

 おわり
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