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コーヒーブレーク(35)

 
最近の米国労働委員会(NLRB)の動き

説得者Persuader 規定の改定

  2016年6月14日開催されたウォートンのRAG(Research Advisory Group)会議で、最近の労働委員会NLRBの動きがいくつか報告されたが、その中でも「persuader」についての解釈の改定rulingが、日本企業にとって影響が大きいと思われるので報告しよう。

  米国労働法は、従業員は労働組合を作る権利も作らない権利も持っているので、どうするかは「選挙で決める」ことを前提に組み立てられている。組合を作る動きは外部の労組からの働きかけ、すなわち組織化努力organizing effort によって始まるが、このときいろいろなトラブルが発生する。その一つがpersuaderの行為に関するもので、persuaderとは会社側から依頼されて活動する弁護士やコンサルタントのことである。

  通常、組織化努力にたいする会社側の対応には、いろいろな制限があり、間違えると不当労働行為としてペナルティの対象になるため(日本の労働法の場合と異なり、組合側の行為にも、不当労働行為の対象となるものがあるが、会社側を対象とする規定の方が多い)専門家の助言が必要である。会社が弁護士やコンサルタントに特定の仕事(サービスやアドバイス)を依頼した場合、組合の組織化に関係がある事柄であれば、依頼した内容や委託先、報酬などの報告義務が発生する。

  ただし、組織化に関係していても、従来の解釈では・非組合員である監督者やマネジャーに対するプレゼンテーションやトレーニング、従業員に対する啓蒙のための材料の原案作成や手直し、意識調査の設計(組合がらみの質問は入っていないもの)等は、直接的に従業員に働きかけるものでないので報告義務の対象外であった。

  これが、2016年の7月1日以降、間接的な説得にあたると認められるものや非組合員対象のものでも内容により報告の対象とされた。報告義務があるかどうかの判定条件は、コミュニケーションの内容、組合の組織化努力が開始されているかどうかなどの労使関係の状況、制度の立案趣旨などで、定義がはっきりしていないため、NLRBの解釈により判定が左右される可能性が高まった。また、報告義務は会社だけでなく、業務委託を受けた弁護士・コンサルタントにもあり、報告内容、報告の提出期限等はそれぞれ決められているが、問題は、会社は弁護士やコンサルタントの報告内容に介入できないので、会社が開示したくないと考える情報が流出する可能性があると指摘されている。

  上記のような改定に対し以下のような訴因でいくつか訴訟が進行中だが、結論は出ていない。

・報告の義務化は州法で定めた弁護士とクライアントのあいだの秘守義務に関する規定に抵触する。(DOLはそのようなことを要求できない。権限を越えている)
・会社側も言論の自由がある。
・罰則規定をもつ規則としては、内容が不明確で、NLRBの恣意的解釈の余地が広い。

 

その他の動き

  民主党政権下NLRBの判断は労働組合寄りの判定が続出し、批判が高まっている。今回のRAGでは、NLRBの委員の一人であるPhilip A. Miscimarraさんの講演があったが、そこでも、タグボートの艇長が監督者supervisor にあたるかどうかで、部下の失敗の責任を問われないという理由で、監督者ではない(よって組合員)という判定を受けたという事例が紹介された。これはかなり偏った判定と思われる。部下がいない場合でも、タグボートのキャプテンとしての責任は全て負わなければならないからである。

  ちなみにフィリップさんは、ワートンのCenter for Human Resources の所属からNLRBに移られた方で、長くRAGの事務局を担当されていた。NLRBの中でも偏らない判断をされるとして各方面から期待されているが、こういう人事をみるとワートンのRAGの実力に改めて驚く次第。

  大統領選挙でクリントンが勝つとNLRBは一層組合寄りになると思われるので、労使関係だけではなく労使紛争に強いマネジャーに対するニーズが、組合の組織化努力の対象となりそうな企業で高まっているが、最近は、働組合の力が低下したこともあって、人事勤労関係者の労使紛争に関する知識が希薄化しているのは日米ともに共通していて、アメリカ人マネジャーといえども紛争に詳しい人は限られている。

今回初めてRAGで、米国トヨタからきたアメリカ人マネジャーに出会ったが、トヨタに移る前からRAGのメンバーだったようで、「トヨタもそういう人材を採用し始めたか」という印象を持った。日本企業はもっとこの分野に対する関心を高める要があると思う。

 

以上

 

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