ホーム  
3Dラーニング・アソシエイツ

コーヒーブレーク(37)

 
LTIP ( Long term incentive plan ) その後II クローバック条項

Clawback:クローバック

  長期的なインセンティブであるストック・オプションやLtip にかかわる動きとして最近注目されてきたのは、clawback(クローバック)とよばれる条項の導入である。claw とはクギ抜きのことで、打ってしまったクギを引き抜く道具である。 clawback とは、公共投資や社会保障などで膨らんだ政府の支出増を増税で補填することを意味する。一旦払ったものを税金で取り返すのだ。これが転じて、ヘッジファンドなどの成功報酬の契約条項に使われている。

運用成績に連動して決まる成功報酬が、大きくなって一定額を超えた場合、超えた分をファンドに返還する、あるいは損失が出た場合の補てんに使うなどとした規定をいう。このルールを長期報酬制度であるLtip にも取り入れようという動きである。処遇制度上は、払ってしまったインセンティブを、後になって「返してくれ」とは、労働法規上かなり無理がある規定といえる。

  しかし、この制度が注目される理由がある。それは、経営幹部の短期的な業績志向を、長期的で持続的な業績志向に変えていこうという動きと、高すぎる報酬という問題である。

 

ボーナスからストック・オプション、そしてLtip へ

  賞与は6か月ないし1年の業績に対して支払われる報酬である。短期の業績にたいするインセンティブで、報酬に占める賞与のウエイトが高いと、経営幹部は半期、1年の業績向上に力が入り、研究開発その他長期の目標の達成に必要な努力に目が向きにくい。この欠点を補うために考えられたのがストック・オプションで、お金ではなく、長期の業績が価格に反映すると考えられる株式で努力に報いようとするものであった。支給された時の株価と権利を行使した時の株価の差が報酬になる。

  ところが、賞与や給与の代わりに株を使う方式は、アクティビストの圧力もあって、手持ち資金を使って自社株買いが頻繁に行うという弊害を生み出した。ストック・オプションで入手した株の値段が上がるので、自社株買いは、経営幹部にとっても歓迎すべきことであるためだ。本当は、手持ちの資金は将来の成長のためにこそ使って欲しい。そこで、3ないし5年かけて達成するような目標に連動するLtip が登場したという訳だ。それでも、短すぎるというので、8年という長期期間を対象とするものも生まれたのである。

 

粉飾決算や不正行為という問題行動の多発

  ところが、短期志向を長期志向に変え、持続的発展を目指そうという試みに立ちはだかる問題が数多く表面化しはじめた。東芝事件やVWのように、不正行為によって業績を良くしてしまうケースである。いわば偽の業績で、賞与や株、Ltip 報酬を取得したわけである。

これを株主が取り返そうと思うと株主代表訴訟のような手段に訴えざるをえず、時間も費用もかかってしまう。そこで、予めLtip の支給基準に不正によって得た給付の返還を求めることが出来る旨の規定を織り込んでおこうという動きがでてきたのだ。

 

強欲資本主義でよいのかという疑問

  努力した人が報われるという制度は正しい。しかし、CEOの報酬が一般の人の300倍になるような制度は正しいのであろうか。こういう疑問が格差問題の認識とともに強くなってきた。特に年金受給者には、一時的な好業績より配当を安定的に継続できる持続可能性の方が大切になる。一方で、clawback 条項の処遇制度への導入には、粉飾や不正の判定が正しくおこなわれることが前提になるので、問題は簡単ではない。各国の税制の違いや商習慣への対応がすべて不正と判定されても困る。

  日本ではまだ長期報酬制度はあまり広がっていないが、そのうち自社株買い問題が注目を集めるようになるとともにストック・オプション対策としてのLtip も注目されるようになる。その意味でclawback 条項の今後に着目すべきと考える。

 

以上

 

【ご参考】
ロングターム・インセンティブ・プラン(LtipあるいはLTP)について興味のある方は、ぜひ次のコラムも併せてご参照ください。なお、3Dラーニング・アソシエイツではジョブ・グレード制の導入やLtip導入のお手伝いもいたします。関心のある方は連絡先へご相談ください。

<関島の書き下ろしコラム>
■21世紀型人材マネジメント
vol.18 処遇(5)長期報償給( Long term incentive plan )
■コーヒーブレーク
・(25) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後

(43) LTIP ( Long Term Incentive Plan ) その後III Ltip 対 強欲資本主義

<弊社パートナーのコズロフスキーが執筆「Reports from New York」>
vol.11 Long-Term Incentives or LTI’s
vol.24 LTIPs and “Clawbacks”


前のコラムへ バックナンバー一覧 次のコラムへ

※この関島康雄のコラムについてのご意見・ご感想がございましたら、メールにてお寄せください。
   メールアドレスは連絡先のページを参照願います。

Copyright since 2006  3DLearningAssociates All Rights Reserved.