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コーヒーブレーク(42)

 
長寿命化とキャリア戦略5 個人が考えなければいけないこと

キャリア戦略

  長寿命化に備えるために個人に最も要求されることは、「キャリア戦略」の明確化である。戦略は、解決に時間とエネルギーを要する難しい問題に取り組むときに必要で、長寿命化対応は、個人にとって、まさしくそういう種類の問題である。詳しくは、拙著「キャリア戦略、プロ人材に自分で育つ法」を読んでほしいのだが、個人は「戦略」についてどういう立ち位置をとるのが良いのか少し説明しよう。

戦略策定の基本は、「外部コンテキストと内部コンテキスト(自分の持っている資源)を比較衡量の上、目標を定める」にある。この際、外部コンテキストの一つが、「75歳まで働く必要」である。一方、キャリアに関係する内部コンテキストの理解は、簡単ではない。自分を知ることは誰にとっても簡単なことではないからだ。そのため、繰り返し「自分らしいとはどういうことか」「本当にしたいことは何か」「これまで何をしてきたのか」について真摯に考えなければな、「自分の持っている資源」も上手く特定できない。「それは難しそうだ、そういうのは得意でない」という反応が予想されるが、大丈夫。戦略論は答えを用意している。
 

「目標は、徐々にハッキリする」で良い

  戦略論では、外部コンテキストは変化するので「全てのことを初めから決めることは出来ない」という考え方がある。それゆえ、決められることだけ決めて、実行し、その結果によって今後の方針を決めるタイプの戦略がある。事後的に決まる戦略と呼ばれるが、この場合は、よく分かっている内部コンテキストを中心に判断して、目標を決定するケースが多くなる。

  事後的に決めるという点では同じだが、もう少し積極的なやり方に、「撃て、狙え」がある。通常、鉄砲は「狙ってから撃つ」ものだが、まず敵のいそうな場所にむかって撃ってみて、その反応で敵の居場所を確認してから狙って撃つ方式である。目標が何かハッキリしていない場合、この方法は適している。

  これをキャリアの場合に当てはめると、やりたいことが、ハッキリとは分かっていなので、取り敢えず出来そうなことから始めてみようというケースに相当する。子供のころから野球の選手になりたいと分かっていて、それに向かって努力している場合は「狙え、撃て」が可能だが、そうでない人は、色々やってみてその後で目標を決めざるを得ない。「撃て、狙え」である。やってみて、「好きなこと嫌いなこと、得意なこと不得意なこと」が徐々に分かってきて、そのうちやりたいこともハッキリしてくる。だから「本当にやりたいこと」が今分からなくても、それほど心配することはない。

 

自分に対して発揮するリーダーシップが不可欠

  「撃て、狙え」型で行く場合、どうしても必要なものは、一歩を踏み出す勇気である。「撃ってみなければ、目標がどこか分からない」からだ。さらには、経験から学ぶ能力も不可欠である。この二つを育てる時に、助けになるのがリーダーシップ理論である。

  リーダーシップは、他人に対して発揮するものという理解が一般的だが、そうではなく自分に対しても発揮できるもので、例えば勇気は、自分に対してリーダーシップを発揮した結果である。そもそも、リーダーシップはリーダーとフォロワーの間で発生する。自分に対する場合は、リーダーは自分で、フォロワーも自分である。物事を実行する場合まず自分というリーダーは、自分というフォロワーを納得させなければならない。だが自分というリーダーが信頼できなければ、一歩は踏み出せない。リーダーシップ理論では「信頼性の蓄積」が大切と認知されている。リーダーの指示に従った場合の結果が良いという経験が積み重なってリーダーに対する信頼が生まれ、フォロワーに信頼されて初めて、リーダーシップは発揮できるという理論だ。それゆえ自分というリーダーの信頼を蓄積するためには、自分で計画、実行し目標を達成しなければならない。人が創った計画に従っているうちは、結果が良くても自分にたいする信頼は、大して貯まらない。「自分で決めて実行」が大切なのだ。

  経験から学ぶにもリーダーシップは不可欠である。経験して分かったこと(Ah-Ha) を分類整理し教訓を引き出さなければならない。多くの場合,人は、経験は尊重するが「振り返り」は軽視し、成功や失敗の原因が次に引き継がれない場合が多い。「振り返り」を実行し、得た教訓を次の機会に生かす「一試合毎に強くなるチーム」でなければ、グローバル時代の競争に生き残れない。個人の場合も同様である。

 

今後獲得する能力も含めて闘う

  戦略論でいう内部コンテキストには、今後獲得する資源も含まれる。その意味で、学習能力や自分を変革する能力が重要になる。ただ、何でも学習すればよいわけではない。戦略目標の達成に役立つ学習でなければならない。先に説明した「撃て、狙え」でいえば、闇雲に撃つのではなく敵のいそうな場所に向かって撃たなければ、目標は発見できない。敵のいそうな場所を見つける必要がある。(この方法について詳しくは「キャリア戦略」参照)

学習は、行動様式を変えるために必要で、変わることが必要なのは、内・外部環境が変化したためである。だが変化に気がつかなければ、行動はおこらない。環境変化に敏感でなければならないし、対応も素早くなければならない。その為には、普段から準備が出来ている必要がある。即応力とかreadiness と呼ばれる組織能力だが、個人も変化に対応する準備が出来ていなければならない。キャリア戦略の目標も柔軟なものが良い。「何になりたいか」ではなく「何をしたいか」を目標とすべきである。その方が、柔軟性が高い。目標が「病気に苦しむ人を助けたい」であれば、医師になっても薬を作る人になってもあるいは車いすを作る人になっても良いのだから。

 

「長寿命化とキャリア戦略」シリーズは以上です。
過去に執筆したキャリア戦略関連コラム「キャリア形成と戦略(全10回)」はこちら。

 

 
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