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第23回ワートン・リーダーシップ・コンフェレンス 報告

第23回ワートン・リーダーシップ・コンフェレンス 報告

  今回のテーマは、アメリカの現状を象徴するように、意見の違いが大きい対立的な状況のもとで、どのようにリーダーシップをはっきするかLeading in a context of conflict であった。刺激的だったのは、変化を生み出すためには、リーダーは、現状を打破するためには破壊屋 Disruptor の役割も果たさなければならないという意見がいろいろ出たことだ。これは、「リーダーとは、皆を纏める人」と考える人が多い日本とは大いに異なる。 拙著「チームビルディングの技術」で、「本格的なチームを創るためには意見の対立がいろいろ起こる混乱期が必要」と力説している者としては、「その通り」と賛成票を投じたい心境であった。以下に特に関心を引いた講義を紹介しよう。

 

CEOは、継続的な壊し屋として建設的な対立をつくり出さなければならない The CEO as serial disruptor: Creating constructive conflict
  Mark Turner, Executive Chairman of the Board, WSFS Bank

  ターナーさんは、CEOに要求される特性は、ビジョンの提示者、人と人を繋ぐ人、コミュニケーションをとる人、などいろいろあるが、もっとも決定的で、かつ過小評価されているのは、「建設的な対立をつくり出す人」という特性だとする。変化をマネージするのではなく、変化をつくり出すのが、本来業務だからだ。組織の意識が現状維持的にならないよう常に揺り動かす必要がある。ともすると、自分の所属する業界の動きに気を奪われて、産業全体の変化のペースを見過ごしがちだが、この点に留意しないと失敗する、と指摘。

  しかし、何らかの措置をしないと会社が責任を問われたり、女性の権利保護に消極的だ、などのうわさを流されたりしかねない。 警察でもないので捜査の権限もないし、事実関係を把握しても、裁判官でもないので公平な判定も難しい。 時間もえらく取られる。困った。そもそもこういう仕事は人事部門が担当すべき問題なのか。 とてもこんな仕事はやってられない、と退職する人も出てきている。

叙事詩的破壊を実行するための新しい技術 New skilling to navigate epic disruption
  Rahul Varma, Senior Managing Director, Talent & Organization, Accenture

  変化のために既存のものを壊していくのには、一連の物語が必要として自社の事例を時系列的に紹介。
 まず、手を付けたのは競争力強化のため取締役会の再構築(2011〜)。ボードメンバーの数を15人から10人に変更すると同時に85%の人を入れ替えた。 メンバーの見直しは継続的に行わなければならないが、交代する人にたいする十分な配慮が必要。次に見本を示す意味で、自分自身の後任人事にも手をつけた(2013〜)。 公認候補5人を5年かけて観察、訓練し3人から1人と絞っていった。2016以降は、戦略の再検討に向けてメガトレンド及びその自社へのインパクトについての検討を重ねた。 要は、変革はjourney だということ。

 

意見の違いが大きい状況下で、どう多様性を維持するか Leading Diversity in a context of conflict
Stephanie Creary, Assistant Professor of Management and Diversity Specialist

  講義のなかでdiversity の歴史を振り返った部分が面白かった。
Diversity とは、年齢、人種、性、収入などで区分された人の混ざり合いのこと。歴史的には、公平性equity に焦点があてられてきたが、次第に帰属意識
belonging ,仲間として包含されること inclusion などに焦点が移りつつある。また最近ではとくに、敬意を払う respect が重要になってきている。 belonging とinclusion の定義は次の通り, belonging :グループあるいはコミュニティの価値あるメンバーとして認められているという実感があること
 inclusion:議論を実のあるものとするために異なる意見を言うことをゆるされる、あるいは意見に耳を傾けてもらえる状況。

 

苦労して得たリーダーシップについての教訓 Hard-earned lessons in leadership
F. William McNabb V, Former Chairman and CEO of Vanguard

  米中貿易問題、イギリスのEUからの離脱、ブロックチェーン、などいろいろな要因によって市場の不確実性は高まっていると言われるが、歴史的に見れば通常の変動の範囲ないに留まっている。1990年から2019年の間でフォーチュン500に残ったのは6社というのが水準だ。歴史の教訓は、生き残りには、成長を求めるマインドセットとグリット、レベル5リーダーシップ、ハイ・パーフォーマンス・チームの三つの要素が必要だとして、其々について解説した。
 マインドセットとグリットについてはそれぞれテキストとなる本を紹介
Mind Set、 the new phycology of success (up dated edition), Carol S. Dweck
Grit、 the power of passion and perseverance, Angela Duckworth
レベル5リーダーシップとは、自分自身の野心ではなく組織としての大望、外部の人や出来事を知覚する力と内部に目を向けての責任感や説明責任の自覚、期待値の高い文化の創造、謙虚さと不屈の精神が混ざり合った人間性に基づくリーダーシップ ハイ・パーフォーマンス・チームは、結果を求め、説明責任を負い、目標の達成に献身的で、建設的な対立を厭わず、メンバーを互いに尊重するようなチーム

なを、そのほかに前フロリダ州知事Jeb Bush さんの、スピーチがあったが、フロリダ州の教育水準の話(中学生はどういう算数の問題が出来なかったか)が面白かった。

 

以上

 
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