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自律型プロ人材にどう育つか
  (株式会社技術情報協会「研究開発リーダー」2007年5月掲載)

 

1.目標の明確化

世の中に、自律型のプロ人材が求められているという声が溢れている。しかし、「自律型プロ人材」という言葉の定義はあいまいなまま議論が進められているきらいがある。そもそも自律とかプロだとかいうことは、個人にとってどんな意味を持つものか、それが日常の立ち振る舞い、仕事の仕方などとどう関係するのか、また、どうするとそういう人になれるのかなどについては十分に説明されていない。そのため、自律すべきだとかプロになれとか言われた個人の方に、戸惑がみられる。そこで、ここではまず、自律型プロ人材の内容を明確にし、その上で、どうすればそのような人材を増やすことが出来るか考えてみたい。実は、自律型プロ人材は、育てられるのではなく自分で育つものなのである。このことは、プロといわれるような人に自分の成長の跡を振り返ってもらえば、すぐに明らかになるのだが、多くの人は、育てられたというよりは、自分で育った部分の方が多いと答えるはずだ。従って、自律型プロ人材を育てる方法とは、自分で育つのを応援することであり、そのためには、目標を明確にすることが大切である。
 

2.組織内一人親方

自律型プロ人材像を説明する時、私の場合は組織内一人親方という表現を採用している。一人親方とは、英語で言うセルフ・エンプロイド、文字どおり訳せば自分で自分を雇っている人という意味で、自営業の人のことである。世界という舞台で活躍する芸術家やプロスポーツ選手もこの仲間である。「一人」と親方の前に形容詞をつけるのは専門性と自律性それに自分らしさ、を強調したいからで、一人で仕事をするからではない。プロフェッショナルも近い言葉だが、「親方」には専門性だけでなく、マネジメント能力も人柄も重要という意味合いがあり、こちらの方が、自律した専門家ということを力強く表現していると考える。一塊の仕事を始めから終わりまで、人に頼らずに自分らしくやることが出来る、経営者でもあり従業員でもあるような専門家が一人親方である。組織内にあっても、そういう気組みと立ち振る舞いで組織に貢献する人が、組織内一人親方である。
 

3.専門性、自律性、自分らしさ、は互いに関係する

 専門性、自律性、自分らしさはそれぞれお互いに影響しあう。専門性とは、特定の職能分野の知識や技術で、それを使うと仕事に就くことが出来る能力のことである。専門性が高まれば高まるほど自分で決定できる範囲が広がるので、自律的に行動できるし、仕事を通して自分らしさも発揮できる。しかし、専門性が高いだけで自律性が伴わないと、良い悪いの判断がおこなえず、専門性を正しく使うことが出来ない。
自律性とは、自分で考え、自分で決定し、実行できる程度のことである。自律性の根幹は自分自身をマネージできることで、自分の感情や行動を制御できなければならない。しかし、自分のことだけマネージできればそれで十分かといえば、そうではない。自分を取り巻く状況を上手にマネージできないと、自分の決めたことも実行できない。周囲の人の感情を動かし自分の決定に共感してもらう能力や意見の違いを調整する能力がないと自律性は高まらない。自律性が高ければ、流行や人の意見に左右されずに判断できるので、自分らしいこととは何かを見つけ易いし、専門分野で新しい切り口を発見することも出来る。
自分らしさとは、単なる自分の好き嫌いや、強み弱みではない。自分が大切だと思うこととそうでないこと、どういう人生を送りたいと考えているか等、自分の特徴を良く理解した上で行動できる能力のことだ。ただし、自分のことが良く分かれば自分らしく行動できるかというと、そうとは限らない。人間は社会的動物なので、その社会が持つ不文律や組織内の政治力などが理解できていないと、行動は直ぐ壁にぶつかってしまう。自分らしいことは好きに成りやすく、努力できるので専門性が高められる。自分らしいことであれば自律的に行動しやすい。三つの要素は相互に強く関係しあっていると言える。
 

4.キャリア形成

一人親方に自分で育つには、一人親方をキャリア目標の一つにして努力するのが良い。
この場合キャリアとは、課長や部長、助教授、教授といった組織の階層を登ることではなく、どういう職業人人生を送りたいか、という問いに対する自分なりの答えのことである。その意味では、中長期の目標でもあり、これまで歩いてきた足跡でもある。当然のことながら、真っ直ぐである場合は少なく、ジグザグとしているのが普通である。なぜなら、キャリア形成は、簡単にできることではないからだ。
キャリア形成の理想形は、
  (1)自分らしい仕事を選択、
  (2)好きだから上手になれ、
  (3)進歩が分かるのでさらに努力でき、
  (4)努力の結果専門性が高まり、
  (5)専門性を何か良いことのために役立てて感謝され、
  (6)自分らしい人生を楽しむことが出来た、
というものであろう。
しかし現実的には、自分らしいことは直ぐには分からないので、(1)の自分らしい仕事を選択するというところで躓いてしまう。
そこで現実的な対応策は、
  (1)自分らしいことが直ぐには分からないのは仕方がないと考え、
  (2)まず歩き出してみる、そして
  (3)歩き出した結果経験できたことから学習し、
  (4)自分らしさを見つけながら専門性、自律性を徐々に高めていく、
  (5)やがて、自分らしいやり方で仕事をする方法をみつけ、適職を自分で作り出し、
  (6)その結果、自分らしい人生を楽しむことができた、
というものになろう。現実的な対応策が成功するかどうかの鍵は、経験から学習できるかどうかである。
 

5.学習とは

学習とは、刺激を受けたことにより反応し、行動様式が変化することであるが、そのためには三つの局面を経過することが必要である。最初は知識やスキルを習得する局面、次が、刺激が心の動きと結びつく局面、そして三番目が、心が動いた結果、習得した知識やスキルを実際の場面に適用してみた、という局面である。知識は使ってみて初めて自分のものになり、行動様式に変化をあたえる。説明が難しく聞こえるかもしれないが、実は小学校や中学時代にだれでも経験したことだ。先生が好きだったので、その学科ができるようになったという現象である。局面1、算数を教えてもらった。局面2、先生が好きになり、好きな先生に認められたいと思った。局面3、それで予習復習をし、算数の成績が上がった。その結果自信が生まれ、他の学科の成績も向上した。
経験から学ぶためには心を動かすことと、実際の場面で使ってみることがなによりも大切だが、そのためには、普段から自分の心の動きをよく観察する練習をするだけでなく、経験から得た教訓を実際の場面に適応する努力をしなければならないということになる。
 

6.時々後ろを振り返る

自分で育つためには、経験から学ぶだけでなく、時々成長の跡を自分で振り返る必要がある。面白い仕事も面白くない仕事も、一生懸命やっているうちに、面白いことの中身が変わってくる。学生時代に面白いと思った本を、社会人になって10年ほど経ってから読むと、面白いと思う場所が違っているはずだ。キャリアについての考え方にも同じような現象が起こる。通常人は、責任が増えるごとに責任を果たそうとして少しがんばる。社会人になったとき、結婚したとき、子供が出来たとき、初めて部下を持った時など等。こういう努力の結果が積み重なって、振り返ってみると、初めて仕事に就いた時に比べれば、ずいぶんいろいろな事を、考えたり実行できるようになったりしていることに気がつく。
もともとキャリアには、あの水準を目指そうと前を向かせる性質と、後ろを振り返って、思えば遠くにきたものだと感じさせる性質の両方がある。前ばかり見ていないで時々成長の跡を確認するのが良い。自分が成長していると実感できれば、それが新しいエネルギーを生む。自分で育つことを応援するには、専門性、自律性、自分らしさのそれぞれの成長度合いを振りかれる機会を設けるのが良い。成人式、課長職任用の示達などいろいろな儀式はそのためにある。
 

7.「何か良いこと」のために

自律的プロ人材、一人親方に育つことをキャリア目標にする理由は、自分らしい人生を送るのに有効だからだ。しかし、組織の枠を超えた何か良いことのために自分の能力を活かすつもりがないと上手くいかない。なぜなら組織は大きくて強力なため、組織との対等性が保ちにくいからだ。組織から要求されても、専門家としての判断から問題だと思えば、拒否したり、対案を提示したりすべきだ。専門性を何かよいことのために使うことから自律性は生まれる。最近は「志」と言う表現が使われることが多い。しかし、自分が好きなことは何か、自分らしいことは何かなど身近なことを、歩きながら考えるというキャリア形成の方法からすると、「志」は少し立派過ぎる感じがする。「志」までいかなくとも、何か良いことのために、余計にがんばることができればそれでよい。
 
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