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教育力競争時代を勝ち抜くには 財政的に自立した企業内大学が必要
  (生産性新聞 2008年2月掲載)

 

 2000年4月3日のファイナンシャル・タイムズに、「教育の虫にとりつかれはじめた企業」というタイトルの記事がある。世界中で企業内大学を持つ企業の数が、1990年は400社であったが、1999年には1600社に増えたという内容である。企業内大学の定義は、「会社を変えるための戦略的な手段として活用されている教育機関」のことで、単に知識を教えるところではない。企業内大学が増えた理由は、いろいろあるが、その一つは、世の中の競争の速度が速くなって、従業員が自律的に判断して行動することが求められるようになったためである。だが、自社の進むべき方向をよく理解していないと、自律的には動けない。戦略の共有化が必要である。

もう一つの理由は、企業が実戦を通して発見した教訓を、組織として共有化するためである。「学習」とは新たな情報や知識という刺激をうけて行動様式が変化することであるが、戦略や教訓を「学習」できるかどうかが、競争に勝つカギになりつつある。教育力競争の時代と言われる所以である。こうした潮流が日本にも押し寄せ、近年、企業内大学の強化に努力する企業の数が増えたと思われる。

 

 企業内大学が教育の対象とするのは多くの場合、経営幹部あるいは経営幹部を目指す人々である。戦略や教訓を最も共有化すべきは、経営の中核をになう人々であるのは、ある意味当然であろう。この人達が学習しなければ、会社は変わらない。しかし、経験が邪魔をして、大人は子供のようには素直に学習できない。「実際の経験からしか本当のことは学べない、戦略論などは机上の空論である」という経験主義的な考え方があるからである。こういう人々に学習させるためには、例えば、「リーダーシップについて理解を深めることは、部長としての役割を実行するのに役立つ」など、理論を学ぶ具体的なメリットを理解させなければならない。

経験は両刃の剣で、学習を妨げることもあるが、支援する場合もある。理論を学んだとき、「ああそうか、自分が経験したことは理論的に言うと、そういうことだったのか」と、経験と理論の照らし合わせができると学習は前進する。要は、理論と実践を行き来することが大切なのである。

 

 本来、MBAなどの教育は、理論と実践を往復するための社会的な仕掛けの一部である。大学を卒業し仕事に就いて、しばらく実務を経験したあとMBAをとる。その後課長や部長の仕事をしてみると疑問も増え理論が知りたくなり、中堅幹部対象の教育に参加する。戻って事業部長の仕事を経験する。その後、優秀層が選抜されてハーバードなどの上級幹部プログラムに派遣され、そのなかから経営者が生まれる。理論と実践を行ったり来たりしながら成長していく仕組みが欧米には、出来上がっている。日本でも最近、色々な大学にMBAコースが設けられるようになったが、中堅幹部用のプログラムや上級幹部用のコースは、まだ十分には用意されていない。従って日本の場合、意識しているかどうかは別にして、企業内大学は、その部分をカバーするという重要な任務を与えられていることになる。しかし問題はその財政基盤である。

 
  日本の企業は好景気だとたくさん採用し、不景気には採用人数を絞るという傾向が強い。投資も同様である。しかし、これを続けていると、好不況にかかわれず必要な投資をしてきたところに負けてしまう。教育投資も研究開発投資や設備投資と同じに大切な投資である。景気に振り廻されるようでは、到底、教育力競争時代を勝ち抜けない。好不況かかわらず必要なプログラムを提供できるよう、企業内大学を財政的に自立したものにしておく必要がここにある。

 
 
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