戦略という言葉は、いろいろな意味で使われるが、ここでいう戦略とは、「ビジョンすなわち遠くの旗、にたどり着くための地図を描くこと」と定義する。そのためには、予想される障害物はどこにあるか、どのルートが最も楽にたどり着けるか、などの分析が不可欠である。又、自分の体力や好みにより、目標を目指して最短距離をいくか、あるいは周りの景色を楽しみながらのんびり行くという選択もありうる。実際の世界では、戦略に全ての要件を織り込むことは不可能で、予期せぬ事態に直面することもしばしばである。進むべき方向も、たびたび変えなければならないのが普通だ。のんびり行こうと思っていても天候が悪くなれば急がなければならない。もちろん、進むべき方向は変わっても、遠くの旗を目指していることには変わりがない。教育体系と戦略の連動性とは、企業の進むべき方向や進み方と、人材の育て方がよく連携がとれているかどうかという課題である。
戦略により必要な人材は異なる。「開拓者精神」とか「(困難な局面に対応できる)丈夫な頭」といった形で表現される、会社が好ましいと思う人材像は共通項としてあるとしても、進むべき方向を変えれば、必要とする人材像も変えなければならない。大型コンピューターを作るのに必要な人材と、パソコンを作るのに必要な人材とは大きく異なるのだ。その意味で、現在必要な人材と、将来必要な人材は同じとは限らない。企業としては、予め、この問題に対するリスクを軽減する対策をとっておく必要がある。この対策のことを筆者は「人材ポートフォリオ」と呼ぶ。人材構成に配慮することにより将来のニーズに備え、リスクを軽減しようとするものだ。問題は、将来必要な人材はそのときになるまでわからないことである。
このことに対する対応策はいくつか考えられる。その一つは、必要な人材がわかった時点で、必要とする人材を外部から直ちに採用すればよいというタイプものだ。この方針の場合、直ちに採用できる仕掛けを、予め、整えることが対策になる。採用のためには、仕事の内容や必要な能力が直ぐに定義できなければならないが、ジョブ・グレード制などが導入されていないとこのことは簡単ではない。また採用した人と従来からいる人とが処遇の水準を巡って揉めないように、賃金制度も整備されていなければならない。必要な人材がハッキリした段階では、そのタイプの人材に対する需要は逼迫しているはずで、報酬も高くならざるを得ない。幅の広いレンジ・レートや数種類の給与テーブルを持つグレード制が導入済みであることが望ましい。
もう一つの方法は、出来るだけ幅の広い人材を組織内に持つことにより、必要な人材の変化に対応しようとするものだ。現在はあまり必要でない人材も抱えることになるので、現在のコスト的には高いが、将来の必要人材は内部から調達できる確率が高いので、将来のコストは安いという特徴をもつ。どちらの方法が良いかは、会社が選択する戦略に依存する。例えば、コア・コンピタンスに関係する部分だけは自社で実行し、それ以外は他の会社に依頼するというタイプの戦略であれば、前者が選択されよう。
どちらの方法をとるにしても、人を育てる仕掛け上、人材のポートフォリオという概念が意識されていることが重要である。