世界中が競争相手であり、複雑な問題が数多く存在する時代、自分のビジネスモデルの優位性を確立するためには、多くの自律的プロ人材、組織内一人親方が必要である。従って、新しい時代の人材育成戦略は、「組織内一人親方をいかに多く育成するか」が目標となる。戦略という言葉は、幅広い意味を持つが、この場合、「遠くの丘の上の旗に到達するための道筋を考えること」と定義しよう。遠くの旗が、組織内一人親方である。
戦略の大枠は、次のようなものになる。「道筋には多くの障害物があると予想されるが、要はこの旗に向かって自分で歩いている人が、たくさんいればよい。当然、障害物を取り除く努力はするが、全部は取り除けないので、各人が自分で障害物を避けて進むことができるような能力を付与する訓練は準備する。各人の体力、好みはいろいろなので、訓練を受けるかどうかは自由。道筋の選択はそれぞれの判断に任せよう。旗には、到達すればよく、速さは問わない。」
上記を具体的な施策に置きなおすと、歩く人を増やすために、1)「遠くの旗、一人親方になるのは大変だが、なれれば自分らしい人生を送ることが出来る。大変だが(途中経過も含め)面白い。やってみる価値がある」というヴィジョンをPRする。障害物を取り除く方策として 2)人を育てることを良しとする企業文化や評価制度などを整備する。成長したい気持ちが育つよう応援するため 3)キャリアについて考えるプログラムとリーダーシップ訓練を充実させる。障害物克服訓練として、マーケティング論や戦略論を学習する機会や、出来るだけ早い時期に失敗や困難を経験できる機会を設ける、などになる。
キャリアとは、「どういう職業人生活を送りたいか」という問いに対して出した、「自分なりの答え」である。それゆえ、専門として選ぶ分野もいろいろであり、目標に向かって歩く速度もいろいろになる。選択は個人に任せよう。しかし、自分で歩く人でなければ目標には到達できない。
ビジネスモデルで競争する時代は、ビジネスモデルの変更がともなう。世界中が競争相手であれば、優勝劣敗は常である。したがって会社は永続的な雇用は保証できない、が正直なところだ。そのかわり、従業員に対し他社でも通用する高い技術や能力を身に着ける機会を提供する責任がある。提供した機会を利用するかしないかは、各人のキャリア観による。新しい時代の人材育成は、会社は「自ら成長する人を応援する」というシンプルで分かりやすい戦略を採用するのが一番である。個人は自分らしい人生をめざし自分で成長する。どちらにとっても、「自ら成長する人」が望ましいのである。