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チームビルディングの技術は、本気を育てる
  (「季刊ひょうご経済」 2010年10月掲載)

 
 

1.困難な目標を達成するチームをつくる技術

一人一人の力の合計以上の力が必要

  チームビルディングの技術は、困難な目標を達成できるチームを作る技術である。困難な目標とは、一人では達成することが難しく、多数の人の力を借りる必要があるだけでなく、ときに一人一人の力の合計以上の力をださないと達成が難しい目標のことである。このような目標の達成のためには、集められたメンバーの全員が本気にならなければならない。従って、チームビルディングの技術とは、別な表現をすれば、みんなを本気にさせる技術のことである。しかし、人は、簡単には本気にならない。だから、チームビルディングの技術も単純ではない。

 そもそも、チームという言葉は乱用されている。野球のチーム、サッカーのチームもあれば、会社、あるいは会社の一部である部や課といった組織を、チームとみなす場合もある。一定の目的のために集まって何かをしていれば、すべてチームとよばれかねない。しかし、チームとは本来、難しい問題を、限られた期間の間に解決するために、専門的な知識や技能を持った人が集められた臨時の組織のことである。

  日本人は集団主義なのでチームで活動するのが得意だとか、チームワークをとるのが上手だとか、一般的には思われている。しかし、最近の職場の状況や研修の際のグループ討議の様子を詳しく観察すると、とてもそうとは思えない。日本のチームワークの良さとは、仲良く物事を進めることに重点があり、新しいものをつくり出すチームワークではない。対立を避けようとする傾向が強いことと、自分の意見を上手に説明する訓練が不足していることが原因で、対話が進んでいるようにみえて、実際はなにも進んでいない。そのためチームとしての意思決定があいまいなまま議論が進行し、後になって意見の違いが表面化したり、表面的にしか合意の取れていない結論がでてしまったりする。チームワークがとれるのは長く付き合った人と活動するときだけで、考え方の異なるメンバーと一緒に仕事をするのは、本当は得意ではないのではないかと思える。

 困難な目標を達成するためには、チームワークを梃子に使って一人一人の力の合計以上の力を発揮することが求められる。しかし、対立を怖がって、各人が自分の意見をはっきりいわなければ、酸素と水素がぶつかって水ができるような変化は生まれない。足りない点を補い合うだけでなく、お互いが刺激しあった結果、一段うえの力量に達するという成長も起こらない。

 

経験的に知っているが、うまく使えていない

  チームビルディングの技術は、上手に結果を生み出せるチームと、良い結果が生み出せないチームとは、どこが違うのかという疑問から生まれた。集める人によるのか、議論の進め方によるのか、それとも時間管理の問題か。この問題に答えるため、いろいろなケースを観察し、チームが良い結果を出すために役立ったと思われる要因を抽出、整理する研究がおこなわれた。これがチームビルディングの技術を作る素材となった。この素材を、仕事を遂行する上での基本的な理論、たとえばリーダーシップ理論や組織論、戦略論などにもとづいて整理しなおしたものが、チームビルディングの技術である。

従って、チームビルディングの技術の大部分は、経験的によく知られたものである。にもかかわらず、それが上手に活用されないのは、例えば「良い目標とは」といったことについての意見が、それぞれの人の経験に基づいたばらばらな持論にとどまっていて、みんなに共通な理論になっていないからである。

  経験的に良く知られたことが人々の共通な理解にならないケースが、しばしば起こるのには理由がある。経験が学習の味方にも敵にもなるからだ。「自分は営業の経験20年、お客のことは、なんでも分かっている。マーケティング理論なんて机上の空論さ」という人は、経験が敵となり理論から学ぶことができない。

反対に「あーそうか、経験から考えていたことは、マーケティングの理論から言うと、こういう部分に相当するのか」と理解する人は、経験が味方となり学ぶことができる。「あーそうか」が大切なのだ。しかし、チームビルディングの技術については、「あーそうか」が起こる元となる理論が多岐にわたるため、各人が理解している理論の量が十分でなく、経験と理論を結びつける作業がはかどらない。「あーそうか」がおこりにくいのだ。チームビルディングの技術を学ぶには、マネジメントに関する理論をある程度理解しているという下地が必要なのである。

 

2.リーダーシップに関する技術の一つ

リーダーが答えを持っているとは限らない

  チームを作る理由は、なにか不満足な状態があるからで、そのため「現状を変えたいから」である。その意味でチームビルディングの技術は、リーダーシップに関する技術の一つである。リーダーシップとは、変えるときに必要なものである。「 今日と同じことを明日もする、今月と同じことを来月もするといった場合、リーダーシップは必要がない、やり方をよく知ったベテランが指示すればすむ。
しかし、従来と違うことをしようと思えば、誰かがリーダーシップを発揮しなければならない」という考え方である。リーダーが大きな構想を描き、それが実現できるとどんなに素晴らしいかを語るのは、変える方向を示し、変わるよう人々を動機付けるをためである。先頭に立って、メッセージを伝えるシンボリックな行動をとるのも、現状を変えたいからだ。しかし、チームビルディングの技術は少し違う。それは、リーダーが先頭に立たない場合に必要なリーダーシップの発揮の仕方なのである。

  リーダーシップというと、先頭に立ったリーダーが、部下に対して発揮するもの、という受け止めが、ごく普通である。しかし、リーダーが先頭に立ってよいのは、答えが分かっているときだけだ。リーダーも答えを持っていない場合は、みんなで知恵を出し合って考えなければならない。先頭に立つのではなく、みんなが本気になって問題解決にあたる状況を作ることが、リーダーの仕事になる。

  リーダーが答えを持っていない問題は、身の回りにたくさんある。例えば、「売れる洗濯機をつくれ」といわれたような場合だ。お客さんの希望を聴いても、音が静か、水の使用量が少ない,生地を傷めない、一度にたくさん洗えるなどさまざまで、どの意見をどこまで尊重するか、すぐに結論を出すことは難しい。使う人の意見だけでなく、売る人、組み立てる人、部品を集める人の意見も聴かなければならない。最近では,捨てる時のことも考える必要がある。みんなの知恵を集めて考えなければならないのだ。

 

リーダーの仕事は、円滑な主役交代のサポート

  チームの活動は、3つの段階をへて本格的に活動する時期に達し、最後に活動の結果を整理して終わる。全体として5つ局面を持つのだが(図1参照)、その局面ごとに主役は交代する。サッカーでいえばボールを受けた人が、パスを出すまでが主役である。フォワード、ディフェンダーといった役割はあっても、だれが主役かはボールの動きが決定する。どのプレーヤーにも、いずれ主役の番はまわってくるので、いつ主役がまわってきても良いように、全体の動きに常に気を配る必要がある。同様に、チームのメンバーも、活動の進捗にともない、どこかで主役を勤める番がまわってくる。チームを率いるリーダーの仕事は、この主役の交代が円滑にすすむよう支援することである。

小学生に、サッカーと野球のどちらが好きかと聴くと、野球と答える子供がいる。理由は、サッカーだと、ときにはボールを蹴る機会がまったくないが、野球は必ず打順がまわってくるからだ。主役を演じる機会がなければ、楽しくない。チームでの活動も同じである。

図1  チームの発展段階

チームの発展段階

 

3.目標の立て方が重要

チームの目標は正しいか

  みんなが、いずれ主役を務めるつもりになるためには、なによりも目標が納得できるものでなければならない。そのためには、目標そのものについても吟味されなければならない。商品が売れない理由がデザインである場合、コスト低減努力は身を結ばない。

  チームの目標が正しいかどうかは、本来の組織が持つ目標、ビジョンやミッションといったものから考えて、妥当かどうか判断されなければならない。ビジョンやミッションとは、例えていえば、遠くの丘の上に立つ旗である。その旗を目指して進むのだが、障害物をさけてジグザグ進むうちに方向がわからなくなってしまう。そんな時、木に登って旗の見える方向を確かめる。役割は、進むべき方向を示すことにある。

  ある会社で、製品に使われていた半導体の歩留まりが上がらず、コスト的にも問題があったので、対策チームが作られ、歩留まりを改善するという目標が与えられた。原因が材料にあるのか製造工程が問題なのかなどと検討が進み始めたとき、メンバーの一人が疑問を呈した。検討の対象としている製品は、ビジネス上どのような位置を占めているのか、多数の専門家の時間とエネルギーをつぎ込むに値するのか、自社製の半導体を使うことが、長期的に見て競争に勝つ上で必要なことなのか等。「歩留まりを上げる」という目標が正しいのか、他にやるべきことはないのかという疑問である。

「歩留まりを向上する」という目標の前提となっていること、すなわち[自社の半導体を使う]という考え方が、会社の進むべき方向という大きな絵に照らして正しいかどうかが問われたのだ。この点に疑問があるようでは、努力が報われない可能性があり、皆を本気にすることは出来ない。チームの目標の正しさを点検する理由がここにある。

 

チームの成功、不成功は何によって判定するのか

  遠くの旗に到達するための地図を描くことを「戦略」と定義できる。旗に到達できれば目標は達成したといえる。しかし、遠くの旗に到達できたとしても、予想以上に時間がかかり体力を消耗、その後なにも出来ないとか病気になってしまったとかすれば、戦略は成功したということはできない。戦略の成功、不成功を判定するためには、遠くの旗に、一晩寝れば解消できる程度の疲労度で、8時間以内に到達することといった条件が必要である。チームの活動も同じように、単に目標を達成すればそれでよい、ということではない。

  チームの成功、不成功の判定条件には、現代の競争の特徴が関係する。現代の競争は、一回限りではなく、長くつづく競争で、勝者はしばしば交代する。次々と新たな競争相手が現れるので、今回勝てたからといって次も勝てるとは限らない。5勝3敗であれば試合を続けられるが、3勝5敗であれば退場をせまられる。勝っても負けても、一試合ごとに強くならなければ生き残れない。強くなるためには、「経験から学習すること」と、「人を育てること」の二つが、どうしても必要である。

チームが成功したかどうかは、与えられた目標を達成したかどかだけでなく、その活動を通して、チームが強くなったかどうかという視点からも判断されるようになった。だが、これは、チームのみんなが本気になって取り組んだかどうかの判定条件でもある。本気で課題に取り組まなければ、経験から学習することは出来ないし、人も育てられないからである。

 

4.再挑戦をうながす技術

勝った理由、負けた理由が判らなければならない

  一回限りでない競争に生き残る為には、勝っても負けても、一試合ごとに強くならなければならない。そのためには、勝った理由、負けた理由が分からなければならない。

  日立の経営研修所に、HIMAXと呼ばれるビジネス・シミュレーション・ゲームがある。5社の過去10期の業績データを示し、5チームがそれぞれ1社を担当、さらに10期経営して「勝っている会社は勝ち続けるように、負けている会社は逆転するようにせよ」というものがある。勝っている会社は、資金量も豊富でありシェアも高いので競走上有利な立場にあるはずなのだが、しばしば逆転の憂き目を見る。

理由は、負けている会社は負けた理由を分析し対策を立てるが、勝っていた会社は自分の戦略が正しいから勝ったと考えがちで、勝った理由の分析がおろそかになるからだ。相手が間違えたから勝った場合、強くなくても勝ってしまう。チームも活動の結果を振り返り、上手くいった理由、上手くいかなかった理由を吟味し、次に何を引き継ぐか整理する必要がある。これが活動の最後、終息期にやるべきことで、これが不十分だと強くはならない。

  終息期の活動を、反省会と考えると間違える。負けた理由を整理し対策を考えても、相手はもっと強くなっているかもしれない。勝った理由を維持できても、次も勝てるとは限らない。更なる工夫が必要である。従って、反省もさることながら、議論の中心は、次に勝つために、するべき事の優先順位を考えることである。もっとも関心を払わなければいけないことは、チームの活動を通して、「あーそうか」、と分かったことの数である。「あーそうか」の数が少ない場合は、メンバーの本気度が不足し、活動にたいする身の入れ方が足りなかったのだ。チャレンジする度合いが低ければ、「あーそうか」と分かることも少ない。この場合は、猛省しなければならない。

 

再チャレンジがしたくなったか

  結果を振り返る際、「三塁手がエラーしたから負けた」と考えるようでは強くならない。目標の共有化ができていないからだ。目標の共有化とは、メンバーが自分の担当した役割について責任を感じるだけでなく、チーム全体の結果にも責任を感じる状態になることだ。「サードがエラーしたとき、一打逆転のピンチを迎え、皆が浮き足立っていた。落ち着いていこうぜとキャッチャーのおれが声をだすべきだった。」「自分の返球がそれていなければ、ランナーは三塁に進んでいなかった。」、「前の回、自分が打っていれば二点差になっていて、もっと落ち着いてプレーできたのに」と考えるようになることだ。

  チームはある意味で、結果によってつくられる。もっとランナーを置いた場面での守備練習をしよう、進塁を阻止する送球を心がけよう、メンタルなトレーニング方法も取り入れてみようなどと、次の対策を工夫できれば、強くなる可能性が高まる。そして、「こういう場面でダブルプレーがとれる実力がつけば、勝てるようになる」と、ランナーを置いての練習は、勝つことにつながる目標になる。練習を積んで力がついたと自信が持てるようになると、負けたチームともう一度試合がやりたくなってくる。練習の成果を確かめたい気持ちが強くなる。本気度が高まったのだ。実際にもう一度試合をしてみて勝てれば、とてもうれしい。「練習を工夫し、その結果、実力が向上した」という貴重な経験が出来上がる。さらに工夫する気にもなるし、練習にも実が入ることになる。

再チャレンジがしたくなるかどうかは、本気度をはかる物差しである。勝っても負けても、もう一度試合をしたくなるチームでなければ、一試合ごとに強くなることはできない。

 

5.「仕事は大変だが面白い」を教える技術

  「あーそうか」の数は、経験から学んだかどうかを判定する指標だが、「再チャレンジしたくなったかどうか」は、人が育ったかどうかを計る目印である。人は、仕事で育つ。良い結果が出ればそれに勇気づけられ、悪い結果がでれば次に改善すべきことが理解でき、それぞれ次の目標に挑戦できる。どちらでも成長できるのだが、やはり、良い結果が出たチームの方が人は育つ。単に仲が良いだけではない本当のチームワークを味わうことができ、本気で課題に取り組むメンバーから学び、再チャレンジの楽しさを経験できるからである。

  一試合ごとに強くなるチームを強いチームと定義すると、強いチームは弱いチームより良い結果をだすことが多いので、多くの育つ場を提供できる。「あーそうか」と経験から学び、対策を立て再チャレンジするようであれば、おのずと実力は向上する。進歩が分かるので仕事が面白くなる。「仕事は大変だが、面白い」を経験できる。

  チームビルディングの技術は、強いチームをつくる技術である。それ故、「仕事は大変だがおもしろい」を教える技術ということもできる。目標の立て方、目標の共有化の方法、主役になったりサポーターにまわったりしながら目標達成に貢献する姿勢、五つの局面ごとに異なるリーダーの役割、どれをとってもノウハウ集があれば簡単に実行できるというものではない。しかし、グローバルな競争時代に日本が生き残る為に必要な考え方、「仕事は苦役ではなく自分を高めるもの、大変だが面白いもの」という文化を引き継ぐことに役立つ大切な技術だと思う。

 
 
以上

 
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これからも随時他のビジネス誌等に寄稿した関島康雄のコラムをご紹介していく予定です。
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本ホームページ内に、チームビルディングについての著書やプログラム提供のご案内もございます。併せてご参照ください。

・著書「チームビルディングの技術─みんなを本気にさせるマネジメントの基本18」
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