VOL.124 HRM戦略再論(7)How to change 時代の戦略目標のつくり方D仕事別賃金
グローバル化の再点検
グローバル化を「働く場所の選択」という視点で眺めた場合、最初は国が決めた。国が、労働需給の状況・失業率などを勘案の上、就業ビザの発給をコントロールした時代だ。これは今でも時々蘇り、最近ではアメリカが実行し問題となっている。その後、輸入制限よりは企業の進出を歓迎する国が増え、市場のオープン化が進んだ。結果、どこの国に進出するかは企業が個別に判断することになり、従業員をどこの国に派遣するかも企業が決定することとなった。現在では、グローバル化の進展により世界中に働く場所が拡がり、個人が働く場所を選択できるようになった。働く場所の選択権は、国から企業、企業から個人に 移行したのだ。
一方、「グローバル化が進むと世界はどういうなるか」については、ボーダレスな自由市場が主流となるという意見と、国別の多様な市場が出現するという意見に分かれた。結果はどちらでもなく、動態資産で競争する世界が主流となった(MITの研究、How we compete)。 動態資産説dynamic legacies model とは、それぞれの企業が持っている人材、技術、経験、学習能力という資産も使って競争するが、これらの資産は時間とともに増減するので動態資産とよばれる。別な言い方をすれば、現在持っている能力だけで闘うのではなく、今後獲得する能力も含めて闘うという考え方だ。それゆえ人は、仕事の出来不出来だけでなく、成長する可能性のあるなしについても判定されることとなった。 そうであれば、個人の方も働く場所を選択する際、いろいろ考えなければならない。仕事の出来具合を評価される場合、「自分の仕事は何か」が明確でなければ困るし、目標が明確であれば、能力向上の努力もしやすい。チームとして仕事を引き受け、メンバーが分担して実行、報酬もチームとして受け取り、メンバーに配分されるというメンバーシップ型の給与よりも仕事別給与の方がグローバル化に適している理由がここにある。
そもそも仕事別賃金がアメリカで広まったのは、雇用機会均等法のお陰である。性別、年齢などの違いに関係なく、同一労働同一賃金の原則を守らないと厳しく罰せられることになった。しかし、「何と何が同じ労働」と判定するのは、簡単ではない。そのため、仕事の定義や評価要素を決めて判定することになったのだが、初めからうまく機能したわけではなく、差別訴訟が多発、それに対応してジョブ・グレード制は進化したのだが、複雑にもなった。その為、従来方式から移行する場合、制度を運用する人の訓練や労働組合の合意などいろいろな準備が必要となった。 だが、変化への適応が生き残りの条件になるHow to change 時代、多様な人材のマネジメントに適した仕事別賃金の導入は、戦略目標に十分なりうる価値あるテーマである。次回は、導入するかどうかを考慮する際、どうしても必要な視点、「従来型の賃金と仕事別賃金はどこが同じで、どこが違うか」について検討してみたい。