「Aクラス人材の育成戦略」を経団連出版から出してから15年以上が経過し、ビジネスを取り巻く内外コンテキストも大きく変化しており、改めて人材開発について考え,再設計する必要がある。
1.どのように変化するか
「Aクラス」の時代は、教育力競争の時代:ビジネスモデルで闘う時代で、
@ 勝ちパターンが長続きしない、優勝劣敗が素早くきまる、という特徴が明らかになった。Fast eats slow . Winner takes all.
A そのため、変化に素早く対応することが必要となり、戦略(定義すると、やりたいことを実行するための基本方針で、目標やその達成のための手段を明記したもので、詳細は別途、実行戦略として臨機応変に規定される)や、その共有化のための努力が、重要となった。
B 変化に素早く対応するためには、支持を待つのではなく、自律的に判断行動できる人材が必要。自律的人材はそれぞれの判断で行動するので、ばらばらな方向に進んでしまう可能性がある。それを避けて目指す方向に進んでもらうようコントロールするのに必要なのはビジョン(何をやりたいか、なぜやりたいか、どうやりたいかを明示したもので、人をわくわくさせるような目標をかかげたもの。ビジョンに従って各人が自律的に判断、行動すると期待して作られている)。それゆえビジネスモデルを実行するのに必要な戦略策定の際、ビジョンの重要性が高くなった。
C 男女ともに仕事を持つのが普通の時代となったため、人材マネジメントも公私の生活バランスを支援する方向へ変化した。Employability, Attract and retain これにたいして現在は、恐竜が絶滅し哺乳類が栄えるというような大きな変化の起こる時期にある。Lester C Thurow は1996年に、その著書「 資本主義の未来」で、その理由を、共産主義の終了、頭脳産業の時代、人口動態の変化、グローバル経済、覇権国の不在、としているが、現状で再点検してみるとそれぞれ、資本主義の多様化、AIやビッグデータの活用、少子高齢化と発展途上国の人口増と難民、グローバル化は、均質化する世界ではなく多様化する世界をつくる方向に作用、米中ともに覇権国とは言えず不在であり、現在の方が変化の起こる理由は強化されている。それにコロナウイルスである。大きな変化は避けられそうにない。
環境変化の規模が大きくて速い場合、「強いものが生き残るのではなく、素早く変化に適応できたものが生き残る」という進化論的な状況が優勢になる。How to change が生き残るための課題なのだ。よって人材マネジメントもHow to change 時代にふさわしいものに改訂しなければならない。
2.多様な要求へ対応できる構造
人材マネジメントが対応すべき外部コンテキストの主なものにアンチ強欲資本主義、株主中心主義対ステークホルダー中心主義があるが、国ごとに異なる公平感、納得感の産物でもあるので、個別の対応が必要になる。
一方で、人材マネジメントがビジネスモデルを支援する役割を持つ以上、そのお客、提供する価値、競争の仕方についても配慮しなければならない。例えば、人材マネジメントのお客は大企業の経営者から管理職、従業員、自営業の人までに広がっている。長寿命化も進んでいるので、若年層から高齢層までの広い範囲の人の、それぞれのニーズにも対応しなければならない。多様な要求に応えられる構造、例えば「プラットフォーム(基本となる考え方を示したもの)とデバイス(お客さんごとに差し替えができる部品)」、といった仕組みが必要になる。
3.人材マネジメントを構成する部品の再点検
人材マネジメントをHow to change 時代に適したものにするためには、その部品を変化
に対応するための3要素(俊敏性、実行プロセス、準備体制)から見直す必要がある。部品とは、この場合、雇用方式、組織、処遇制度、人材開発、などなどのことであるが、部品同士が連動して How to change を支援するように工夫されていなければならない。
また、適応すべき内部コンテキストの主なものに、自分で育つ意欲の低下、OJTの形骸化、職場に存在する強い同調圧力、戦略やリーダーシップについての理解不足、文脈理解が不得意な人などがある。これらは、個々の部品の設計上、個別に配慮が求められる。
再設計に当たっては、課題がとても大きくて複雑なので、この種の問題に取り組む時の定石「撃て・狙え」を採用する。修正や後戻りが頻発すると思われるが、めげずに、人材マネジメントに関係する分野の新しい考え方を広く学習しながら、粘り強く取り組み、人材マネジメントの進化に貢献できればと考える。
以上
(情報掲載日:2021年1月15日(金))