line

日本型人材マネジメントの再設計

関島康雄

前へ    目次へ


line

Ⅰ.日本型HRMが適応すべき外部コンテキスト

line

1.新しい競争相手と新しい競争の場の出現

(1)概ねの方向を決める3つの手掛かり

21世紀型人材マネジメントという大きなテーマに取り組むためには、きわめてたくさんのことに答えを出さなければならない。

歩きながら考えるのが流儀なので、概ねの方向を決めて歩き出すことにしよう。

今のところ、21世紀は始まったばかりで、概ねの方向を決めるのに必要な情報はあまり多くはないが、それでも整理すると3つほど手がかりを見つけることが出来る。

一つは、競争の仕方についての予測、もう一つは、「グローバル化がもたらす影響」について予測、三つ目が、これまでの人的資源管理の歴史である。

それぞれを深く検討する項は別途立てるとして、とりあえずこの三つの手がかりを順番に概観してみよう。

line

競争の仕方の変化

line

第一の競争の仕方だが、ビジネス・モデルによる競争という様相には、急激な変化は起こらないと思われる。

ビジネス・モデルとは、「①お客さんは誰で、お客さんにどういう価値を売るか、そして②どうやって収益をあげるか」という二つの質問に答える仕組みのことだが、ビジネスにとって非常に根源的な要素についての問いかけであり、よほど世の中が変わって、たとえば、非常な物不足で、誰に売るかは問題ではなく、資材の確保だけが課題、と言った状況が起こったりしない限り、この二つの質問に対する答えを企業は意識せざるを得ない。

答え方により企業間に優劣が生まれることは当然である。少し難しく言えば①の質問は、マーケティング戦略は?と言う質問に、②の質問は、競争戦略は?というビジネスについての基本的な質問に置き換えることが出来る。

お客さんは不特定多数で誰でも良いということはありうるが、その場合でも、値段、品質、特定の利便性など提供する価値は、ビジネスごとに決めざるを得ない。また、収益をあげるためには、通常の場合、競争相手に勝たなければならない。

競争相手のいない場所を目指すという戦略もありうるが、そのためには新しい市場を開拓する努力、新しい技術の開発や新しいコンセプト概念の提案が不可欠で、人に先駆けて結果を出さなければならないので、これもどうやって競争に勝ちますかという質問の答えの一つであることに変わりはない。

要は、ビジネス・モデルによる競争という特徴点は、21世紀になってもあまり変化していない。変わったのは、ネットビジネスという新しいメンバーが登場したことと、競争の場が世界中に広がったことである。

line

新しい競争相手と新しい競争の場

line

ネットビジネスが世に出てから10年以上が経過したことにより、ネットビジネスの特徴点は少しずつ明らかになり始めた。

オークションなどにより、売り手と買い手を結びつける能力が非常に高いとか、大量の品揃えが可能なため機会損失を少なくすることができ、「めったに売れない商品からも利益を上げることができる」というロングテールの法則が生まれるなど、従来と異なる点も分かってきた。

一方で、お客は取引するサイトをどんどん変えたりはせず、思いのほかブランドに対する忠誠心が高く、このためマーケットシェアとかブランドといった古典的な道具が良く機能するということも分かってきた。 

そうだとすると、既存のビジネスの方も対抗策はいろいろ考えられる。今やネットビジネスに参入することはそれほど難しいことではなくなったのであるから、ネットビジネスをはじめても良いし、大量の在庫は持たない替わりに、お客さんとのface to face の関係を強化し、お客さんの好みをよく理解したうえで、的を絞った在庫を持つ方法も採用できる。 

ネットプレヤーという新しい競争相手とネットビジネスという新しい競争の場の出現は、「競争の仕方」に大きな変化をもたらしたことは間違いない。

しかしそれ以上に、ビジネス・モデル、すなわち「お客さんは誰でどういう価値を提供するか、どうやって競争に勝つか」を、従来以上に深く考えることが要求されるようになった。

では、競争の場が世界中に広がったということは、どう競争の仕方に影響を与えるのであろうか、次にこのことを検討してみよう。

以上

前へ    目次へ