2016年6月14日開催されたウォートンのRAG(Research Advisory Group)会議で、最近の労働委員会NLRBの動きがいくつか報告されたが、その中でも「persuader」についての解釈の改定rulingが、日本企業にとって影響が大きいと思われるので報告しよう。
米国労働法は、従業員は労働組合を作る権利も作らない権利も持っているので、どうするかは「選挙で決める」ことを前提に組み立てられている。組合を作る動きは外部の労組からの働きかけ、すなわち組織化努力organizing effort によって始まるが、このときいろいろなトラブルが発生する。その一つがpersuaderの行為に関するもので、persuaderとは会社側から依頼されて活動する弁護士やコンサルタントのことである。
通常、組織化努力にたいする会社側の対応には、いろいろな制限があり、間違えると不当労働行為としてペナルティの対象になるため(日本の労働法の場合と異なり、組合側の行為にも、不当労働行為の対象となるものがあるが、会社側を対象とする規定の方が多い)専門家の助言が必要である。会社が弁護士やコンサルタントに特定の仕事(サービスやアドバイス)を依頼した場合、組合の組織化に関係がある事柄であれば、依頼した内容や委託先、報酬などの報告義務が発生する。
ただし、組織化に関係していても、従来の解釈では・非組合員である監督者やマネジャーに対するプレゼンテーションやトレーニング、従業員に対する啓蒙のための材料の原案作成や手直し、意識調査の設計(組合がらみの質問は入っていないもの)等は、直接的に従業員に働きかけるものでないので報告義務の対象外であった。
これが、2016年の7月1日以降、間接的な説得にあたると認められるものや非組合員対象のものでも内容により報告の対象とされた。報告義務があるかどうかの判定条件は、コミュニケーションの内容、組合の組織化努力が開始されているかどうかなどの労使関係の状況、制度の立案趣旨などで、定義がはっきりしていないため、NLRBの解釈により判定が左右される可能性が高まった。また、報告義務は会社だけでなく、業務委託を受けた弁護士・コンサルタントにもあり、報告内容、報告の提出期限等はそれぞれ決められているが、問題は、会社は弁護士やコンサルタントの報告内容に介入できないので、会社が開示したくないと考える情報が流出する可能性があると指摘されている。